秋田2区 立民が「共産隠し」

26日午前、小雨の降る秋田県北秋田市の山間部。立憲民主党公認の緑川貴士は有権者を見つけるたびに選挙カーを降りて駆け寄り、政策ビラを手渡しながら支持を訴えた。静かな集落にはスピーカーから緑川のキャッチフレーズが響いた。

「今こそ世代交代。若さと行動力の緑川」

一騎打ちの相手となる自民前職の金田勝年は参院議員時代を合わせ議員生活24年の72歳のベテラン。法相も務めた実力者だ。一方、36歳の緑川は、若さとフットワークの軽さを前面に押し出し、浸透を図る。

立民や共産など野党5党は、289ある選挙区のうち4分の3に当たる213選挙区で候補を一本化した。秋田2区もその一つだ。

4年前の前回衆院選で希望の党から出馬した緑川は金田に1672票差で敗れた。ただ、前回は共産候補も加えた三つどもえ戦。今回は共産が候補を立てなかったことで一騎打ちの構図が実現した。前回、共産候補が獲得した約1万3千票がそのまま緑川に乗れば、計算上は金田を上回る。

「一本化は歴史的なことだ」

共産秋田県委員長の米田吉正は、秋田2区での立民との共闘をこう歓迎する。同県委は組織を挙げて1日当たり2千~3千件の電話作戦を展開し、「選挙区は緑川、比例は共産党」と訴えながら緑川を支援する。

しかし、緑川陣営は「共産色」の払拭に躍起だ。立民の支持組織で、共産と歴史的に対立関係にある連合が、立共の接近に不快感を持っているためだ。

連合の地方組織の連合秋田は緑川に推薦を出した。会長の才村泰彦は、野党候補の一本化を「選挙区の住み分けの範疇(はんちゅう)」として事実上容認するが、「共産が含まれる野党共闘にはくみしない」と断言する。こうした意向も踏まえ、立民秋田県連幹部は公示前、「『共闘』という言葉は使わない」と共産側に通告した。

緑川は共産のみならず、立民カラーも封印する。選挙カーや政策ビラに「立憲民主党」の文字はなく、党本部が応援の幹部を現地入りさせると提案したときも「個人戦に徹したい」と断った。「無党派層や保守層を取り込まないと選挙区では勝てない」(陣営関係者)とみているためだ。

自民が、日米同盟などの基本政策で立場が異なる立民と共産の共闘を「立憲共産党」などと批判していることも無関係ではない。

「大事なのは経験と実績。『世代交代』は、軽々しくいう言葉ではない」

金田は25日、能代市の会合で、集まった約400人の支持者にこう訴え、緑川への対抗心をあらわにした。

この会合には、秋田県出身で前首相の菅義偉が応援に駆け付けた。この日一番の拍手で迎えられた菅は「最も頼りになる政治家だ」と金田を持ち上げ、「共産は『日米同盟廃棄。自衛隊は憲法違反だから解消』と言っている。どうやって国民の命と暮らしを守ることができるのか」と立共の共闘を批判した。

金田は前幹事長の二階俊博の側近として仕え、昨年10月に衆院予算委員長に就任後は、新型コロナウイルス対策を盛り込んだ補正予算案の審議などを取り仕切った。最近は党内で比較的日の当たる道を歩んできたはずだが、金田陣営の幹部は「今回の戦いはまさに横一線、まったく予断を許さない非常に厳しい状況」だと分析する。

そんな金田のため、28日には首相の岸田文雄が終盤戦でカギを握る大票田の同県大館市に応援に入り、「何としても金田さんを皆さんの力で押し上げ、勝利を与えていただきたい」と訴えた。

全国に接戦区が60近くあるとされる中、岸田はチャーター機まで使って秋田2区に乗り込むことを決めた。新旧首相の応援を受けた金田の周辺は「比例復活では格好がつかない。首相の来訪が追い風になってほしい」と祈るように語った。(広池慶一)=敬称略