犯罪最前線

駅の凶行どう防ぐ カメラで狭まる「死角」 不審者検知機能も

JR上野駅構内で男性2人が刺され、駆け付けた警察官が刺したとみられる男を取り押さえた=15日(提供写真、一部画像を加工しています)
JR上野駅構内で男性2人が刺され、駆け付けた警察官が刺したとみられる男を取り押さえた=15日(提供写真、一部画像を加工しています)

不特定多数が利用する電車内や駅構内で、刃物を使って面識のない相手を襲う事件が相次いでいる。今月、東京都台東区のJR上野駅構内で会社員の男性2人が刺された事件では、巡回中だった警察官が刃物を持って暴れる容疑者を迅速に取り押さえたものの、覚知が遅れればさらなる被害が生まれた可能性もあった。利用客の安全をどう確保するか。鉄道各社は利便性やプライバシー保護などの観点から手荷物検査には二の足を踏む一方、顔認証機能を備えた防犯カメラの導入など、新たな対策にも乗り出している。

上野駅での凶行

「うわ-」

「なにしてるんだ」

今月15日午後3時10分ごろ、JR上野駅構内が騒然となった。同じ会社に勤務している豊島区の30代男性と川崎市の20代男性が、面識のない男に後ろから刃渡り12センチのペティナイフで太ももや背中を刺された。20代男性の背中の傷は、深さ3センチに及んでいた。

殺人未遂容疑で現行犯逮捕されたのは、足立区の職業不詳の男(45)。偶然、駅を巡回していた警視庁上野署員が刃物を片手に興奮している男に出くわし、取り押さえたという。

「悪口を言われ、怒りが爆発した」。男はこう供述しているが、被害に遭った男性らは「ATM(現金自動預払機)に並んでいたら後ろから突然刺された」と話している。

駅や電車の利用客が突然襲われる事件は、後を絶たない。平成30年に神奈川県内を走行していた東海道新幹線「のぞみ」の車内で、男女3人が殺傷される事件が発生。今年8月には、世田谷区を走行中の小田急線車内で、男が刃物を振り回すなどして乗客10人が重軽傷を負う事件が起きた。殺人未遂容疑などで逮捕された無職の男(36)と乗客らに面識はなかった。

駅や電車内での凶行は、多数の犠牲者が生まれる可能性があり、警視庁も警戒を強めている。

テロを想定した多摩モノレールの車両内の訓練で、犯人役を取り押さえる警視庁東大和署員ら=20日、東京都東大和市の上北台駅(松崎翼撮影)
テロを想定した多摩モノレールの車両内の訓練で、犯人役を取り押さえる警視庁東大和署員ら=20日、東京都東大和市の上北台駅(松崎翼撮影)

東大和署は今月20日、鉄道車両内で乗客が襲われる事件を想定した訓練を多摩都市モノレールと共同で実施。通報を受けて駆け付けた署員が駅員と協力し、刃物を振り回して暴れる男をさすまたや盾などを使って取り押さえた。同署の青木修地域課長は「警察だけでの対応は難しい。今後も連携を強化したい」と話す。

対策迫られる各社

鉄道各社も防犯カメラの増設や駅員の巡回強化など対策を進める。西武鉄道は昨年度、駅や車両内の防犯カメラを129台増設。今年3月時点で1660台が監視の目を光らせているという。防犯カメラの普及により、襲撃犯を見失う「死角」は狭まり、捜査幹部も「100%逃げられない」と力を込める。

事件事故を未然に防ぐ手立てはあるのか。海外では英国とフランス、ベルギーを結ぶ「ユーロスター」などで、手荷物検査の導入例がある。日本国内でも国土交通省が関係省令を改正し、7月から乗客への手荷物検査を可能としたほか、拒否した乗客を駅から退去させられるようにした。

ただ、ある鉄道事業者は「利便性を考えると手荷物検査の実施は現実的ではなく、検討すらしていない」と明かす。運行間隔の短さや警備員の人員不足などを踏まえると、国内での運用はハードルが高いという。

こうした中、JR東日本は7月、不審者や指名手配犯らを自動的に検出する顔認証システムを備えた防犯カメラを採用した。マスクを着用した状態でも検知可能で、首都圏の主要駅などで稼働。検知した場合は警備員らが対象者に声を掛け、手荷物検査などを行う。置き去りにされた不審物も検知できるという。

同社は「国内外で犯罪・テロの脅威が高まっており、テロ行為を未然に防止し、安全・安心を確保する」としている。

利用者も危機意識を

テロ対策に詳しい公共政策調査会研究センターの板橋功センター長は「手荷物検査を実施できるようになったことを各社がPRするだけでも、犯罪者は『自分の荷物を見られるかもしれない』と危惧し、抑止につながる」と強調。「在来線では難しいが、新幹線では対象や時間などを限定したランダム(抜き打ち)検査を実施してもいい」とする。

加えて、利用客自身の危機意識の低さも指摘。平成7年に発生した地下鉄サリン事件を挙げ、「あの頃は、危険人物がいないかと、皆が自然に周りを見回していた。自分の身を守るためにも、スマートフォンを眺めることだけに集中するのではなく、周囲に注意を払うことも必要だ」と訴えた。(松崎翼)