衆院選で街中を走る選挙カーが批判の矢面に立たされている。定番のマイクでの名前の連呼は、これまでもようやく寝かしつけた赤ちゃんが起きてしまったなどと非難の声を浴びることがあったが、新型コロナウイルス禍で在宅勤務が普及した今、仕事の支障になりかねないという理由も加わった。陣営にすれば選挙カーは、大がかりな集会が難しい中での限られた〝武器〟。知名度アップは短期決戦を制する要素とされ、一票を投じる側の思いとは裏腹に、従来の手法へのこだわりがある。
大阪市在住で在宅勤務が週5日という営業職の女性(31)はオンラインで会議に出席したり、取引先と商談を行ったりするが、選挙カーが近くを通るたびに画面の向こうに聞こえないようにマイクをオフにする。「正直に言って騒音でしかない。逆効果では」
31日投開票の衆院選は最終盤を迎え、各候補者の訴えも一層熱を帯びるが、ツイッター上では、「うるさい」「時代遅れ」などと批判的な意見が目立つ。中にはオンライン会議などの最中に名前を連呼する声が相手に届いてしまい、大体の居住地が推測されるとの懸念のつぶやきも見られた。
不特定多数に訴え 陣営「役割大きい」
疎ましく思われがちな選挙カー。マイクなどを通して候補者名や政党名を連呼する行為は公職選挙法で午前8時から午後8時までと定められ、学校や診療所の近くでは「静穏」を保持する努力義務も課す。
だが、罰則はなく、静穏の線引きもあいまいだ。うるさいとして、選挙カーを止めようものなら、選挙妨害の罪に問われかねない。
大阪府内の選挙区で複数の候補者を擁立している政党幹部は選挙カーに対する批判について「コロナ禍以前の選挙でもそういった声はあった」と話す。
多くの陣営は、救急車などの緊急車両が付近を通行する際は選挙カーからのアピールを一時止め、サイレンの音がかき消されないようにするなどしており、同幹部の政党でもそうした配慮を徹底しているという。
その上で、「自宅近くに選挙カーが来れば、『この候補は何を訴えるのか聞いてみよう』と考える有権者もいる」と有効性に言及。「SNS(会員制交流サイト)を含め、発信手段は多様化しているが、選挙区内で不特定多数の人に訴えかけられる選挙カーが担う役割は大きい」とみる。
専門家「良識に従った活動が求められる」
選挙プランナーの草分けとして知られる三浦博史氏によれば、コロナ禍で集会所などへの呼び込みが控えられる中、選挙カーは顔も名前も大きく掲載でき、候補者の存在を知ってもらうための「必須アイテム」という。
特に高齢者が多い地方などでは、重要度が増す。ある候補者はわざわざ回って来たのに、別の候補者は来なかったとなれば、「当然得票にかかわってくる。相手陣営がしていることは自分もしなきゃいけないという心理も働く」と三浦氏。一方で「うるさいと感じる人に配慮し、日中は住宅街を走らないという候補者もいる。それぞれの良識に従った活動が求められる」と指摘した。