【パリ=三井美奈】「開かれた王室」が進む欧州で、王子や王女は「どこまで自由を享受できるか」という問題が浮上している。英王室を離脱したヘンリー英王子(37)のように、王位継承の見込みが薄い王族が相次いでビジネスに活躍の場を見いだす中、トラブルも目立つ。王室は国民の信頼維持に必死だ。
自立は本物?
英国では、ヘンリー王子が執筆中の回想録が話題になっている。7月、「王子ではなく、一人の男性として書いている」と声明を発表。出版は来年とみられており、「また爆弾発言が飛び出すのでは」との観測が広がる。
王子とメーガン妃(40)は昨年、公務を退いて「経済的自立を目指す」として米国に移住した。テレビ番組に出ると王室の人種差別批判まで飛び出し、動向は常に論議の的だ。今回の出版契約額は、2000万ドル(約23億円)との報道もある。
ノルウェーでは、ハラルド5世国王(84)の長女、マッタ・ルイーセ王女(50)が逆風にさらされた。
王女は2年前、「霊媒師」という米国生まれの黒人男性との交際を発表。「王女と霊媒師」と銘打った講演ビジネスを始めた。批判殺到で王女は講演を中止したものの、ノルウェー主要紙の論説で「称号を返上すべきだ」と要求された。批判の矛先は「なぜ、娘を止めないのか」と国王にも向いた。王女はホーコン皇太子の姉で王位継承権4位にあたる。
世継ぎに不足なく
欧州では女性も王位継承が可能で、国王直系の「次の君主」に不足はない。「開かれた王室」で、王子王女は庶民と一緒に学校に通うのが当たり前になった。世継ぎ以外の王族が公務にとどまらず、一般社会で人生を模索するようになったのは自然な流れといえる。マッタ・ルイーセ王女は2002年、王室特権や公務を減らし、セラピストとしてビジネスを開始した。税金も払っている。
だが、王族には「誘惑」もつきまとう。スペインではフェリペ6世国王(53)の姉、クリスティーナ王女(56)が脱税罪で起訴される事件まで起きた。
この事件では王女の夫が、代表を務める非営利団体を通じて公金横領した罪に問われ、王女も責任を追及された。王女は17年に無罪となったが、夫は禁錮刑の判決を受けた。夫はハンドボールの元五輪選手。2人の結婚はかつて、王室民主化のシンボルだった。
王族が政治利用されるケースもある。
ベルギーでは17年、フィリップ国王(61)の弟、ロラン王子(58)が政府に無断で中国大使館のパーティーに出席。政府は「制裁」として王族手当をカットした。パーティーは中国人民解放軍の記念式で、王子は軍服姿で参加。記念写真をツイッターで発信した。
世継ぎ以外の王族は日常生活の監視が緩い分、トラブルの危険もはらむ。ひとたび問題が起きれば、その影響は君主にはね返る。欧州王室は常に「金がかかる」との批判にさらされ、生き残りのためスキャンダル回避は極めて重要となる。
王室スリム化
こうした中、王室スリム化の動きも出てきた。
スウェーデンのカール16世グスタフ国王(75)は19年、ビクトリア皇太子(44)の弟王子、妹王女の子供たち5人を王室から外すと発表した。特権や公務はなくなるが、王位継承権は維持され、国王の家族として「王族」に残る。
オランダは王室を君主の3親等までに限定。13年のウィレム・アレクサンダー国王(54)即位に伴い、国王のいとこは王室から外れた。王室スリム化には、チャールズ英皇太子(72)も前向きと報じられている。