ビブリオエッセー

家族の糸が織りなす物語 「雲を紡ぐ」伊吹有喜(文藝春秋)

伊吹さんの作品はいろいろと楽しませていただいたが、この小説はことのほか大きな出会いで、感動を誰かに伝えたいと思った。

主人公の山崎美緒は女子高生。会社員の父と中学で英語を教える母の一人娘だが母との関係は気まずく、両親の仲はよくない。さらにあることがきっかけでいじめにあい、不登校になっていた。

母方の祖母も元教師で周りは復学させようと躍起になるが、美緒は次第に追い込まれていく。ある日、美緒は思い切って父方の祖父、山崎紘治郎が住む盛岡へ向かった。

私も物心ついたころから中学を卒業するまで祖母と枕を並べるほどのおばあちゃんっ子だったので美緒の気持ちがよくわかる。しかし美緒の家族と祖父とは疎遠だった。美緒はネットで調べ、初対面に近い祖父と向き合う。

紘治郎はホームスパンの生地を作り出す、地元では知られた職人だった。その父の代からの染織の家業を、美緒は手伝いながら少しずつ覚えていく。最初は自分の色(糸)でショールを作るために。この小説は工房での作業や暮らしぶりが実に生き生きと描かれている。

実は紘治郎も先立たれた元妻、つまり美緒の祖母に複雑な思いを抱えていた。そこへ妻に似た孫娘が現れ、だんだんと情が移っていく。とりわけ「美緒」という名前の由来について語る場面は感慨深い。家族が紡ぎ出してきた歴史。中島みゆきの「糸」に思いが及んだ。

私の祖母も長男である父を含め息子三人の母親だったが一人娘を幼い頃に亡くし、「あんたは〇〇ちゃんの生まれ変わりや」と、とてもかわいがってくれたことも思い出した。

小説では東北の自然描写もちりばめられる。美緒は優しい祖父らと美しい景色に癒やされていった。もう一度読みたいと思う作品である。

京都府木津川市 福森真知(51)

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