選挙のたびに課題となる若者の低投票率問題。「投票しても何も変わらない」との無力感が背景にあるともいわれるが、若者が政治に無関心になればなるほど、高年齢層の意向が強く政治に反映される「シルバー民主主義」がはびこるともいえる。前回衆院選では若い世代の投票率は50%以下。そんななか、「投票率75%」を目指す団体が誕生した。若者たちがこぞって投票所に向かう日は来るのだろうか。
高齢者世代寄り
今年8月、衆院選で投票率を75%に押し上げることを目標に掲げる団体「目指せ!投票率75%プロジェクト」が立ち上がった。子供の貧困や震災復興といった課題の解決に取り組む人たちが中心となり、啓発を続ける。
「若者の4人に3人が投票に行くだけで選挙結果は変わる。自分たちがキャスチングボートを握っていると理解してほしい」
呼び掛け人で、NPO法人キッズドア(東京と中央区)の渡辺由美子理事長(57)は力を込める。
念頭にあるのは、世代間をめぐる投票率の格差だ。投票率が53・68%にとどまった前回衆院選(平成29年)。世代別で最も投票率が高かったは60代の72・04%だが、10代は40・49%▽20代は33・85%▽30代は44・75%-にとどまり、若い世代は軒並み50%を切った。
渡辺さんは「若い世代の投票率が低いため、政治が高齢世代の声に引っ張られがちになる」と指摘する。
埼玉大の松本正生名誉教授(政治意識論)は「選挙は政治に意思表示できる唯一の機会。これが機能しなくなると結果的に政策の劣化という形でしっぺ返しにあう」と話す。
政治に冷ややか
しかし、政治に対する若者たちの視線は冷ややかだ。若年層の投票率向上に取り組むNPO法人ドットジェイピー(中央区)学生代表で、三重大の細谷柊太(しゅうた)さん(21)は「『投票しても何も変わらない』『無駄』という感覚がある」と話す。
政治に関心を持っても、それを冷やかしたり、足を引っ張ったりするような風潮もある。
「学部やNPO以外のコミュニティーで政治の話題をすると、けげんな目を向けられる」。細谷さんもそんな空気を感じるという。政治やメディアにも、「もっと若者に響くような政策論争や報道を目指してほしい」と求める。
ただ、長引く新型コロナウイルス禍にあって、政治への期待の芽生えもうかがえる。結婚や子育て、就職など、若者たちにとって大事なライフイベントに直面するなか、自分たちを取り巻く環境は厳しさを増しているからだ。
衆院選で重視したい政策は何か。同プロジェクトが今年8月に実施したアンケートには、約4万5千件の回答が寄せられた。関心が高かったのは「現役世代の働く環境を改善」「新型コロナ対策」「子育て環境の改善」―だった。
渡辺さんは「投票は国民から政治家へのラブコール。『自分たちの声も聞いて』と振り向いてもらうため、若年層の政治的関心を上げて投票行動を促したい」と話した。
投票の値段は
若年世代の投票率が1%下がると、その世代は1人あたり年間約7万8千円も損をする―。
東北大大学院の吉田浩教授(公共経済学)が、投票結果が国の施策に影響を与えるという仮説をもとに調べたところ、こんな試算が浮上した。吉田教授は「投票の価値を数字で分かりやすく示そうと考えた」とねらいを語る。
50歳未満を若年世代と定義。若者世代の投票率が1%低下すると、国債発行額は1人あたり年間約2万7千円増え、若年世代向けの社会保障費は約1万6千円減少する可能性が判明した。
さらに少子高齢化など、若い世代の負担が避けられない社会的変化を踏まえると、1%の投票棄権によって、若者1人あたり年間約7万8千円の経済的負担につながると試算された。
数字はあくまでも令和元年時点にはじき出されたもので、コロナ禍の影響は加味されていない。吉田教授は「損得という狭い観点だけでなく、日本や自分たちの現在や将来を選ぶという大切さを考えてほしい」と話している。(桑村大、野々山暢)
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コロナ対策などを争点に各地で舌戦が続く衆院選。国の針路を決める重要な選挙だが、低投票率など課題もある。投票日が迫るなか「一票の価値」を考えたい。
わざわざ投票所に行かなくても、スマートフォンや自宅のパソコンから投票ができないのか。そんな思いを持つ人も少なくないだろう。新型コロナウイルスの収束が見えぬ中、「インターネット投票」に関心を持つ人は多い…