日本の未来を考える

成長と分配 二択は誤り 学習院大教授・伊藤元重

伊藤元重氏
伊藤元重氏

成長と分配が当面の経済政策の重要なキーワードとなっている。こうして2つの言葉を並べると、成長を重視するのか、それとも分配を重視するのか、二者択一のトレードオフの議論になりがちだ。成長を重視する人たちは成長によって経済全体のパイを拡大すれば、所得の低い人たちにもその恩恵がいずれ及んでくるという。分配を重視する人たちは、成長重視の姿勢では所得や資産の格差が広がるばかりなので、分配政策をもっと前面に出すべきだと主張する。

しかし、これは私が学生の頃に学んだ経済学の考え方とは少し違う。市場メカニズムを有効に活用すれば資源の効率的な配分が実現するし、経済成長率を高めることもできるかもしれない。それを前提にした上で、所得分配の適正化を図るような再分配政策を実行すればよいというのが、私が学んだ経済学だった。配分と分配のための政策は別個のもので、両方をうまく組み合わせれば望ましい分配を実現できる。成長も分配も両方とも追求する考え方である。

これに関連して、ティンバーゲン=マンデルの「政策振り分け」(policy assignment)の議論を考えてみたい。いずれもノーベル経済学賞を受賞したティンバーゲン氏とマンデル氏という2人の経済学者の議論だ。

政策目標が2つで政策手段が1つしかなければ、2つの政策目標―例えば成長と分配―の間でのトレードオフの関係が生まれ、一方の成果をあげようとすれば、他方が犠牲になる。つまり、成長を取るのか分配を取るのかという議論になる。これに対し、2つの政策目標に2つ以上の政策手段があれば、両方の目標とも実現可能となる。こう考えると、成長と分配の両方で成果を実現しようとするなら、成長に有効な政策、分配に有効な政策をそれぞれ準備し、その両方を同時に実行することが好ましいことになる。もちろん、政府の政策リソースには限界があり、成長に注力すれば分配への対応がおろそかになるし、分配を重視すれば成長の成果が制約されるという面もあるかもしれない。ただ、多くの政策目標に対して多くの政策手段を準備すれば、成長と分配という2つの目標の間に深刻なトレードオフが存在するとも考えにくい。

マンデル氏の理論を当てはめると、成長と分配のそれぞれの目標には、それぞれ適した政策があることになり、成長を促すのに有効な政策、分配を是正するのに有効な政策をそれぞれに振り分ける必要が生じる。そこで重要なことは、まず、それぞれの実現のため有効な政策手段をきちっとリストアップすることだろう。成長と分配の両方を実現することができないと考えるのは、「成長こそが重要だ」とか「分配だけ配慮すればよい」とか、一方だけを重視する考え方に縛られるからだが、多くの人にとっては成長も分配も両方とも重要なはずだ。

まずは、どのような政策手段が有効か検討し、その上で成長も分配も実現するような「政策振り分け」を行う必要がある。(いとう もとしげ)