糖質制限やプチ断食などの普及で注目を集める「ケトン体」。脂肪が分解されてできるもので、人が生まれたときから備わる最も基本的なエネルギー源だ。胎児の脳のエネルギーの半分以上はケトン体で、近年は認知症や鬱病などの予防に活用する研究も進む。ケトン体に焦点を当てた本書は、脳エネルギーの視点からケトン体の役割を解説、脳を長持ちさせるための栄養摂取法を提案している。
「ケトン体は、脳のブドウ糖が不足したとき脳の救世主となる。脳のエネルギーはブドウ糖だけという学説は既に否定されており、脳のためにケトン体も必須なのです」
著者は、20年以上にわたり認知症患者の脳の神経細胞を保護する薬の研究をしていた神経科学者。ケトン体に注目したのは約10年前、自身の体調不良がきっかけだ。1日3食で毎回主食を取り、間食に菓子を食べていたら、体重は90キロを超え、気分がすぐれず夜も眠れなかった。糖質制限を試したところ、数日で気分が晴れ晴れとし2カ月で30キロ減量。ケトン体も増加した。糖質過剰を改めたことで本来のエネルギー代謝に戻り、ケトン体を作るための酵素が大量に作られたためだ。しかし、1日の糖質が20グラム以下と極端なためか、やせた分、老け込んだ。
「糖質も重要な栄養素で必要なもの。問題は糖質の過剰摂取です」
糖質過剰が続くとケトン体を作る酵素の働きが止まるためエネルギー不足に陥る。これが続くと脳は認知症や鬱病に向かって動き出す。脳がいつでもケトン体を使える状態にすることが大事で、一日のうち1食は主食をやめる▽食事の間隔をいつもよりあける▽間食を減らす▽軽い運動をする―など生活習慣の見直しがケトン体活用につながる。
「認知症など脳の病気を心配する人は多い。ケトン体をうまく使えば脳の健康寿命を大きく延ばすことができる。ケトン体を減らさない生活を心がけてほしい」
平沢裕子
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【プロフィル】佐藤拓己
さとう・たくみ 昭和36年、岩手県生まれ。東京工科大応用生物学部教授。専門は神経科学、抗老化学。