これまで罷免ゼロ 国民審査の意義とは何か

31日の衆院選に合わせ、「憲法の番人」と呼ばれる最高裁裁判官の国民審査が行われる。不信任が過半数になれば辞めさせることができるが、これまでに罷免された裁判官はおらず、制度の形骸化が叫ばれて久しい。ただ、今年に入り夫婦同姓を定めた民法などの規定が「合憲」とされるなど、その判断はわれわれの生活に多大な影響を及ぼす。今回は過去2番目に多い11人が対象。インターネットの発達で関連情報も以前より入手しやすくなっており、専門家は「国民が関心を持つことが重要」と強調する。

「不信任」最高15%

昭和24年に第1回が行われた国民審査は、米ミズーリ州の制度を参考に導入されたとされ、衆院選と同じ18歳以上の男女が投票権を持つ。投票用紙には審査を受ける各裁判官の名前が印刷され、辞めさせたいと思えば「×」を記載、なければ何も書かずに投票。「○」「△」など、×以外を書いた場合は無効になる。

×が記載された票(不信任票)が何も記載されていない票(信任票)を超えた場合、その裁判官は罷免される。投票は各投票所で衆院議員の小選挙区と比例代表と一緒に行われるが、期日前投票も可能だ。

ただ、これまでに24回行われ、延べ179人が審査を受けているが、罷免された裁判官はゼロ。最も多く×がついたのは昭和47年に行われた第9回審査での下田武三氏で、15・17%。失言があり野党が反発、「罷免キャンペーン」を展開した影響もあったという。

最近では、個々の裁判官の「不信任率」は軒並み10%以下にとどまっている。

審査受けず退官も

民事・刑事の事件などで憲法違反や重大な法令違反があるかどうかを審査する最高裁裁判官は「識見が高く法律の素養がある40歳以上の者」が条件。長官を含む15人で構成され、慣例として出身分野ごとの枠(裁判官6人、検察官2人、弁護士4人など)が決まっている。任命は内閣が行い、天皇が認証。最高裁長官は内閣が指名し、天皇が任命する。

憲法では、任命後、初めて行われる衆院選の投票日に審査を受け、10年が経過した後に初めて行われる衆院選の投票日に、再び審査を受けると定められている。50歳以下が任命された例は過去になく、昭和40年以降は全員が60歳以上から選任されているため、審査を受けるのは事実上、一度きりとされている。

ところが、今年7月には、平成30年1月に66歳で就任した宮崎裕子氏が定年の70歳となり、史上初めて審査を受ける機会がないまま退官した。この間、衆院の解散がなかったことが理由だが、関係者の間で波紋が広がった。

「自分事」で投票を

国会議員が決めた法律を覆せる強大な権限を持つ最高裁裁判官を国民が直接チェックするという重要な意義を持つ一方、機能しているとは言い難い国民審査。裁判所行政に詳しい明治大の西川伸一教授(政治学)は「正直言って、衆院選の『刺し身のツマ』のような扱いとなっている」と嘆く。

投票日の数日前には、投票の参考にするため審査対象の各裁判官の略歴や関与した主な裁判などを紹介した「審査公報」が各世帯に届くが、最高裁で扱う案件は抽象的で難解なものが多く、一読するだけでは理解するのは難しい。選挙を経て就任するわけでもないため、一般人にとっては「人となりもよく分からず、雲の上の存在」(西川教授)となってしまっているのは否めない。

ただ、最高裁が行う判断や決定は、社会や国の形に関わる重要なものばかり。そこには、各裁判官の考えが色濃く反映されている。

たとえば今年6月、夫婦別姓を認めない民法などの規定を「合憲」とした最高裁大法廷での判断。15人中4人が「違憲」とする意見を付けた一方、職務で通称(旧姓)を使っている女性裁判官が「合憲」とするなど、個々の裁判官がこの問題を深く考え、結論を導き出したことがうかがえた。

西川教授は「ネットの発達もあり、最高裁裁判官の詳しい経歴や関与した判決などの情報が以前より入手しやすくなっている。ぜひ自分事として考え、関心を持って投票してほしい」としている。(原川真太郎)