深層リポート

埼玉発 蜷川幸雄さん高齢者劇団解散 平均81歳超 コロナも打撃 12月に最終公演

さいたまゴールド・シアターの劇団員、宮田道代さん=9月28日、さいたま市中央区(兼松康撮影)
さいたまゴールド・シアターの劇団員、宮田道代さん=9月28日、さいたま市中央区(兼松康撮影)

統括がいないと

一方で、結成以来、メンバーの新加入はなく、劇団員の平均年齢は当初の66・7歳から81歳を超えた。メンバーも33人に減り、体調などさまざまな理由で、参加が困難なメンバーも増えてきていた。

もちろん、蜷川さんが平成28年に亡くなったことも大きい。「蜷川さんは永遠だと思っていたけれど」と話すのは、劇団員の宮田道代さん(72)。「私たちのようなグループは統括してくれる人がいないと難しい」との思いを抱くようになったという。

蜷川さんが亡くなった後、同劇場を管理する公益財団法人「埼玉県芸術文化振興財団」の渡辺弘財団事業部長が「ゴールド・シアターは蜷川さんありきで集まった人たち。団員の気持ちを聞いて劇団の方針を決めよう」と、解散の是非を団員に尋ねた。だが誰一人解散の意思はなかった。「蜷川さんの思いが残っているところにいたかった」と宮田さんは述懐する。

チャンスあれば

しかし、コロナ禍はそれ以上の苦境を劇団にもたらした。今年2月に予定されていた公演「聖地2030」は中止の憂き目に。稽古も従来通りに進められなくなるなど、解散の大きな理由となった。

そんな中で行われる最終公演が「水の駅」。せりふのない、ゆっくりしたテンポの沈黙劇で、演出に杉原邦生氏を迎える。北沢さんは「ゴールド・シアターとしての活動が一旦終わるとしても、チャンスがあれば芝居をいくらでもやりたい」と意欲を見せる。

「人生のリアルというものを背負ったまま舞台に立つから、それは観(み)たこともない演劇になる」―。蜷川さんが残した言葉を体現する舞台が12月19日、同劇場大ホールで開幕する。

彩の国さいたま芸術劇場】 さいたま市中央区にある埼玉県の複合舞台芸術施設。芸術・文化の振興や豊かでゆとりのある県民生活の実現に寄与することを目的に建設された。蜷川幸雄氏が芸術監督を務めていたが、来年4月に舞踊家の近藤良平氏が芸術監督に就任する予定。すでに今年4月から、劇場の新たな創造発信の方向性やプログラムの策定にあたっている。

記者の独り言】 「人生のリアルを背負ったまま舞台に立つ」と蜷川幸雄さんが表現したゴールド・シアターの役者。だからこそ、あらゆる表現が面白く見える、という意味で、蜷川さんは事あるごとに、こういう表現を使っていた。劇団員のインタビューを通じても、その雰囲気は十二分に感じられた。一つの質問に対し、15年以上に及ぶ劇団での出来事など、あらゆる場面に話がふくらみ、気付けばインタビューの予定時間をあっという間に過ぎていた。自身の経験に重ねながら答える姿に、蜷川さんも演出として面白さを感じていたのではないか。そんなことを想像させられる楽しい時間だった。(兼松康)