フジツボが貼り付く仕組みを応用、新しい「医療用接着剤」が瞬時に止血するメカニズム

続いてユクは、フジツボにヒントを得た接着剤を、外科医が使用する止血用ペースト剤「SURGIFLO」や凝血パッチ剤「TachoSil」といった製品と比較してみた。その結果、「フジツボ接着剤」は既存製品の8倍の接着強度をもつことがわかった。また、切除したブタの大動脈を使って接着部が破れる限界値を示す「バースト圧」を測定したところ、ユクの接着剤は血流から予測される数値の2倍の圧力に耐えたという。

この結果に力を得たユクらのチームは、発明の成果を生きた動物でも試してみることにした。心室の筋肉につけられた直径2mmの傷口から出血しているラット群を麻酔下におき、「フジツボ接着剤」または既存製品の「SURGICEL」と「COSEAL」のいずれかを使って止血を試みた。

すると「フジツボ接着剤」のみが、脈打つ心臓の動きに邪魔されることなく傷口をふさぎ、出血は数秒のうちに止まった。その模様はこちらの動画でご覧いただけるが、映像が生々しいのでご注意いただきたい。「非常に衝撃的な映像でした」とユクは言う。

医者も驚く効果

さらにユクたちは、ラットの肝臓でも同じように実験した。動物の体内で血管が最も多く集まる肝臓は、出血の研究において重要な意味をもつ臓器だ。

このときも出血は数秒で止まり、2週間が経過しても心臓と肝臓の穴は変わらずしっかりふさがれていた。「ラットは麻酔から覚め、回復しました。観察室にいるあいだじゅう、そのラットをなでてやりましたよ」とユクは語る。

続いてブタを使った実験をすることになり、ユクは大型動物を扱う設備が充実しているメイヨー・クリニックの研究チームに協力を求めた。彼らは血液に自然に備わっている凝固力に頼ることは避けたいと考えた。手術中の患者は血液を固まりにくくする処置を受けていることが多いからだ。

このため実験用のブタ3匹には、事前に抗凝血剤のヘパリンを投与した。その後、3匹それぞれの肝臓に幅1cm、深さ1cmの穴を3つずつ開け、計9つの傷口を「フジツボ接着剤」のペーストと凝血パッチ剤TachoSilのいずれかを使って治療した。

チームに所属する獣医のひとりであるティファニー・サラフィアンは、こんな接着剤はいままで見たことがないと語る。「ペーストを塗布したら、あとは数秒間待つだけです」と彼女は処置の様子を振り返る。「術野から手を離すと、『待って、もう出血が止まってる!』という感じで、本当にびっくりしました」

サラフィアンは当初、比較のために使ったTachoSilが3分ほど経っても効かなかった場合、ブタを生かすために抗凝血剤を体外に出し、自然に血を固まらせて傷を治そうと考えていた。ところが、もっと早く出血を止めようと、彼女はとっさに別の行動をとった。豆粒大の「フジツボ接着剤」を傷口に絞り出したのだ。「奇跡の接着剤と呼んでいいほどだと思います」と彼女は言う。

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