話の肖像画

出井伸之(22)コーポレート・ブランディングはCEOの責任

コンピューター見本市のプレゼンでジョージ・ルーカス監督(左)と対談する=1999年11月、米ラスベガス(ソニーグループ提供)
コンピューター見本市のプレゼンでジョージ・ルーカス監督(左)と対談する=1999年11月、米ラスベガス(ソニーグループ提供)

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《広告宣伝本部長時代の経験を生かし、ブランドイメージの強化にも尽力した》


1999年11月に米ラスベガスで開催された世界最大のコンピューター見本市「COMDEX(コムデックス)」で家電メーカーのトップ、日本企業のトップとして初めて基調講演をしました。パソコン以外のネットワークAV機器の開発を先取りしていることをアピールするために、パソコンの「VAIO(バイオ)」、ゲーム機の「プレイステーション(PS)2」、デジタルテレビ、モバイル機器というインターネットの4つのゲートウエーを提供するソニーの戦略を打ち出しました。

当時、ソニー・コンピュータエンタテインメントアメリカの社長だった平井一夫さんが流暢(りゅうちょう)な英語でPS2を紹介したほか、映画監督のジョージ・ルーカスさんなど、大物ゲストを次々に迎えて展開するショー仕立ての演出でプレゼンテーションをしました。

インターネットがコンピューター業界だけのものではなくなり、それをソニーがリードするという戦略をアピールできました。家電とコンピューター業界の垣根を取り払った瞬間ともいえます。「デジタル・ドリーム・キッズ」と「リ・ジェネレーション」というソニーのビジョンが間違っていないと思った瞬間でもあります。

毎年、コーポレートブランド「SONY」のイメージ調査を全世界で行っていました。そこで気になったのは、中国などの新興市場で、SONYのイメージに「最先端」とか「若々しい」という要素が減ってきたことでした。エレクトロニクス、エンターテインメント、ゲームなどのソニーの全体像をアピールするブランディング活動の場がないことも課題でした。

これらの課題に対応するため、北京に科学博物館を開設したり、人の感性に訴える最先端の技術を消費者に届ける「QUALIA(クオリア)」プロジェクトや、二足歩行ロボットを使った「QRIO(キュリオ)」プロジェクトなど、ソニーの技術力をアピールするブランディング活動を行いました。これには新しい技術を継続的に研究できるという側面もありました。


《2007年から8年間、国際サッカー連盟(FIFA)とトップスポンサー契約を交わす》


FIFA主催の全てのワールドカップ(W杯)イベントのスポンサーにならないかというオファーがきました。40大会以上をカバーする契約でした。

グループ横断的に使用できるマーケティングプラットフォームとして、映像コンテンツを使用できる権利は魅力的でした。それ以上に、SONYの全体像をアピールできること、サッカーから「若い」イメージを得られる可能性があること、新興市場にもアプローチできることが重要なポイントでした。技術者にスポーツコンテンツを研究対象として考えさせることが、エレクトロニクスの将来にとって重要だとも考えました。

契約した翌年の研究発表イベントでは、多くの技術者がサッカーを研究対象にしていました。また3D(立体)や高解像度技術の4Kの研究にはこの契約が役立ちました。マーケティング担当者の横連携もできるようになり、結果的に「最先端」とか「若々しい」というイメージが強化できたのです。

ソニーの歴代経営陣はSONYブランドに強いこだわりを持っていました。VAIOやPSのような製品ブランドは事業担当役員の責任ですが、コーポレートブランドに関しては、CEOが責任者です。コーポレート・コミュニケーションという考え方をもとにブランディングをCEOが行うことの重要性については、ベンチャーなどの若い経営者にもいつも伝えています。(聞き手 米沢文)

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