台湾関与強化急ぐ米政権 同盟で対中抑止網構築

バイデン米大統領(AP)
バイデン米大統領(AP)

【ワシントン=渡辺浩生】バイデン米政権が中国による台湾侵攻に備えた関与政策の強化に動き出している。台湾の防空識別圏への中国軍機の大規模な進入を契機に、台湾海峡を挟んだ軍事バランスが中国に優勢になりつつあるとの危機感が背景にある。台湾への軍事介入の可能性を戦略的にあいまいにする従来の姿勢は当面継続しつつ、インド太平洋における同盟諸国と連携した「抑止戦略」構築を急ぐ。日本の関与にも要求が高まりそうだ。

10月に入り中国軍機の連日の大規模な進入を受けて政権高官、元高官、連邦議員による台湾政策に関する発言が連日相次ぎ、台湾は米外交政策の「舞台の中心」(米紙)となった。

この間のホワイトハウス、国務省、国防総省が発信するメッセージはほぼ一貫している。

①台湾近辺での中国による挑発的な軍事行動は地域情勢を不安定化させ、(不測の事態につながる)当事者間の判断ミスを招くリスクを高めている②台湾に対する軍事・外交・経済的な威圧をやめるよう中国に強く要求する③米国は「一つの中国」政策と一致しつつ、台湾が十分な防衛力を維持するよう必要な軍事支援を供与し続ける-。

「一つの中国」政策とは、断交に先立つ1972年の米中共同声明(上海コミュニケ)の「米国は、台湾海峡の両岸のすべての中国人が、中国はただひとつであり、台湾は中国の一部であると主張していることを認識する」という文言に集約される。

79年の中国との国交樹立と台湾断交以降、米歴代政権は同年に国内法として施行された「台湾関係法」に沿って、台湾に武器供与などの支援を続ける。同時に侵攻の際に米軍が台湾を防衛するかどうかは明確に示さない「戦略的あいまいさ」を維持する。

しかし、中国の習近平国家主席が台湾統一に武力行使も辞さない姿勢を打ち出し、軍事挑発を強めたことで、「専制主義と民主主義の戦いの最前線」となった台湾への侵攻を阻止するため、米政府が台湾有事に軍事介入する意思や保証を明確にするのではないか、との観測が広がっている。

超党派が支持

米外交問題評議会のリチャード・ハース会長らが昨年9月、「著しく好戦的な中国を阻止するのは無理だ」として「戦略的あいまいさ」を見直して、中国が侵攻したら米国は台湾を守ると対外的に示す「戦略的明確さ」に転換すべきだと主張。論争に火が付いた。

民主・共和が対立する連邦議会も台湾関与の強化には超党派で支持する。

台湾侵攻の際の軍事力使用の権限を大統領に与える「台湾侵攻阻止法案」が2月、リック・スコット上院議員(共和)により提出。下院軍事委員会のエレイン・ルリア委員長(民主)も今月ワシントン・ポスト紙への寄稿で「大統領が台湾への強固な関与を遂行できるよう議会が結束するときだ」と訴えた。

政府での検討はどうなのか。米国防総省に近い情報筋によると、同省内ではトランプ前政権のときから、「あいまいさ」を見直し、台湾防衛を明確にすべきだという意見が強まった。

少なくとも1年前から米特殊部隊が台湾で陸軍を訓練してきたことが今月、発覚したが、これも同省内の台湾の防衛力に対する危機感の表れといえる。

実際、中国の近年の軍備増強の加速で、台湾海峡をはさむ軍事バランスは中国側に有利に傾斜している。

昨年秋に米空軍が図上演習を実施した。結果は、米軍が中国の台湾侵攻を撃退したが、「犠牲が多くて成功に見合わない。多くの人命と装備の損失で米軍は台湾の全面的な奪取を阻止することが可能となった」と米軍事専門紙「ディフェンス・ニュース」が報じた。

米インド太平洋軍のデービッドソン司令官(当時)が上院公聴会で「6年以内」に台湾侵攻が起きる可能性を語ったのは3月だ。だが、元米海軍の専門家は「事態はさらに切迫しており、数年内に起きる可能性もある」と語った。