話の肖像画

出井伸之(21)変革への道、さまざまな人との出会い

新経営体制についての会見を終え、握手を交わす(左から)出井伸之・新会長兼CEO、安藤国威・新社長兼COO、徳中暉久・副社長兼CFO =平成12年5月
新経営体制についての会見を終え、握手を交わす(左から)出井伸之・新会長兼CEO、安藤国威・新社長兼COO、徳中暉久・副社長兼CFO =平成12年5月

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《平成11年に社長兼CEOとなり、翌年会長兼CEOとなる》

変革に立ち向かうには、指し示したビジョンに対する揺るがない信念が必要です。悩んだり、心が折れそうになったりしたこともあります。それを支えてくれたのは、さまざまな分野の方々との交流です。みなさんからのアドバイスや言葉が変革に立ち向かう原動力になりました。

米IBMのルイス・ガースナーさんと初めて会ったのは、彼がRJRナビスコからIBMのCEO(最高経営責任者)に就任して3年目のときです。私が社長になると、「君は生え抜きだから気の毒だよ。私は外から来たから、『IBMなんぞ木っ端みじんにしてやる』くらいの気持ちだった。だから、思い切ったことができたんだ」と言われました。ソニーのアドバイザリーボードメンバーとしても、多くの知見をもたらしてくれました。

ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチさんとは、マイクロソフト主催のCEOサミットで一緒になりました。そこで彼は「業界で1位、2位を保てない事業は処分せよ」との自説を披露しました。私が「成長した産業では1位、2位を定義するのは簡単だが、インターネット関連など伸び盛りの安定しない産業でどのようにナンバーワンを決めるのですか」と質問をすると痛いところをついたようで、これを機に非常に親しくなりました。

ソニー社員に講義をしてくれたときには、「ソニーの経営へのアドバイスは」という質問に対して「私は世界中で統一した経営のやり方をしている。ソニーのようにさまざまな事業を行っている企業の経営の仕方は知らない」と言っていました。ソニーの本質を理解し、経営上のアドバイスをくれる人でした。

《産業界以外にも交流は広がった》

僕の「インターネットは隕石(いんせき)だ」という話は、惑星物理学者の松井孝典(たかふみ)さんからインスパイアされたものです。松井さんとは、地球と生物のメカニズムを前提に、これからの組織はどうあるべきか議論しました。インターネットにより、組織と個人の情報格差がなくなり、組織から個人への力の移動という「遠心力」が働くので、リーダーシップによる「求心力」がないと組織は崩壊するという結論になりました。

インターネット社会においては、分極を認めつつ緩やかな統合を求める組織が必要だと気づかされ、「遠心力と求心力」「分極と統合」が経営のキーワードになりました。

音楽家の坂本龍一さんはビジネスという視点で、冷静に音楽業界の現状分析をし、未来をみている人です。音楽業界は「インターネット隕石」の影響を明確に受けました。音楽コンテンツが無料でばらまかれる状況から、どのようにビジネスを成り立たせるか考えると同時に、リアルなパフォーマンスの重要性も早くから指摘していました。

坂本さんは知的好奇心が旺盛で、生物学などにも興味を持っておられます。僕が脳の動きに興味を持ったのは、彼の影響があったかもしれません。

作家の塩野七生さんとの出会いは、ローマでの本の対談です。ローマの歴史から、ソニーの変革へのヒントをもらいました。都市国家だったローマは積極的に異分子を取り入れ、自己変革をしたことで巨大なローマ帝国になったということや、歴代ローマ皇帝には属州(本国以外の領土)出身者もいて、変革を推進していたという話に感銘を受けました。

あるとき僕が本を出版すると、原稿用紙で手紙を下さり、そこには本の辛口の批評が書かれていました。同世代ということもあり、時代感覚や現代をみつめる認識が共通していて、率直に話ができる友人の一人です。(聞き手 米沢文)

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