シカやイノシシなど野生鳥獣による農林水産物への被害が深刻だ。九州で最も大きな被害が出ている福岡県では、狩猟期間を拡大して、捕獲作戦を展開し成果を上げているが、一方で高齢化が進むハンターの減少が止まらない。同県は11月28日までジビエフェアを開催中で、獣肉活用を促進してハンターの捕獲意欲に弾みをつけたい考えだ。本格的な猟解シーズンを前に、同県の野生鳥獣の事情を探った。
生息域広がるシカ
農林水産省などによると、かつて野生鳥獣は貴重なたんぱく源だったが、平成になって、イノシシやシカが爆発的に増加した。そこで農水省はイノシシ、シカを令和5年度までに半減させる計画を策定。鳥獣被害防止特措法を施行し、侵入防止柵設置を強化してきた。その成果もあって被害額は平成22年度を境に減少傾向にあるが、なお高い水準で推移している。
福岡県内の農林水産物被害も22年度の15億7400万円をピークに減少してきたが、令和2年度は7億4300万円と九州で最も大きな被害額で、同県は「まだまだ管理目標には届かない」という。
同県は、①侵入防止②捕獲の推進③獣肉の有効活用促進―を3本柱に被害削減を目指している。侵入防止柵の設置は国の補助事業として急速に進展。被害減少の背景となっている。同県八女市では「設置希望者の約9割は終えた」という。
ただ、防止柵でイノシシなどの侵入を防いだとしても、野生鳥獣の被害はなくならない。そこで福岡県が強化しているのが捕獲の推進だ。北海道以外の鳥獣の狩猟期間は11月15日から2月15日までだが、同県はイノシシ、シカに限って11月1日から3月15日までに拡大。さらにイノシシのわな猟は、10月15日から6カ月間できるように制限を緩和し、捕獲を推進している。
こうして捕獲されたイノシシは令和元年度で2万4645頭、シカ1万932頭。シカはこの10年で3倍に増えており「捕獲数は国の計画を上回る水準」と県農山漁村振興課。
イノシシが多いのは八女や糸島地方。八女市は「昨年度は3千頭を捕獲した」という。シカは生息域が拡大。これまで英彦山周辺が被害の中心だったが、八女地方でも捕獲されるようになり「耳納連山でも数件の目撃情報がある」と久留米市。カモ被害が増え、田川市や添田町ではアライグマやアナグマの被害も目立つようになった。新顔も現れた。10年前にはいなかったカワウが筑後川流域に出没し、アユなどの川魚を食い荒らしているという。