「もりねき」で叶う理想の暮らし 市住建て替えで地域価値向上へ 大阪・大東市

もりねき住宅。2階建てと3階建ての6棟が中庭を囲む=大東市北条3丁目
もりねき住宅。2階建てと3階建ての6棟が中庭を囲む=大東市北条3丁目

大阪府東部、大東市の飯盛山のふもとにあった古い市営団地が3月、木造低層の共同住宅に、北欧のライフスタイルをテーマにした飲食店や芝生公園を備えたエリアへと生まれ変わった。民間の資金やノウハウを活用し、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)と呼ばれる公民連携の手法を使った国内初の市住建て替え事業だ。高齢化が進む街の価値を向上させ、将来は民間賃貸への切り替えも視野に入れる「持続可能な地域再生モデル」として注目される。

自然たっぷり

JR四条畷駅から東へ歩いて5分。住宅が密集する大東市北条3、4丁目の入り口に差し掛かると芝生の広場が見えてくる。東には飯盛山、そばには権現川の清流。レストランは遠方からやってくる女性客でにぎわい、ベーカリーのイートインでは住民がおしゃべりを楽しむ。

「住民以外の地域の人にも喜んでもらい、市内外から移り住みたいと思ってもらえるエリアにしたかった」

こう話すのは、市が出資する株式会社「大東公民連携まちづくり事業」(コーミン)代表取締役の入江智子さん(45)。市の建築技師から転身し、今回のプロジェクトを牽引(けんいん)したキーマンだ。

かつて一帯は築40年以上の5階建てや平屋などが建つ「飯盛園第二住宅」だった。北条3、4丁目地区は高齢化率が36%と市全体より9ポイントも高く、他にも古い団地や施設が多いため、民間による開発が進まなかった。

市は「施設個々ではなくエリアごとに発展させる発想が必要」(東坂浩一市長)として、平成28年に公民連携による建て替えを決定。隣接する公園を合わせた約1ヘクタールのプロジェクトは、飯盛山の「もり」と河内弁の「近い=ねき」を合わせた造語「もりねき」が愛称となった。

民間に転換も

事業にあたり、コーミンは市と民間の間に立ちPPPエージェントと呼ばれる事業の推進役を担った。市との共同出資で建物を所有する特別目的会社「東心」を設立。東心は50年契約で市から土地を借り、市が建て替え後の住戸をすべて借り上げるというユニークな方式を採用した。

コーミンが、設計前に市やテナント事業者と必要な面積や構造、デザイン、賃料などを話し合い、事業計画を策定。民間の視点でデザインや採算性を詰め、建設費などを抑えた。

住宅は住民の代替わりに合わせて市の借り上げをやめ、民間賃貸に切り替えていく。民間の賃料でも入居があると見込むからだ。市によると、団地の解体や公園などの整備費に約15億円を投じたが、家賃や国からの交付金が入り、住宅地として価値が上がれば固定資産税の増収も見込めるという。

団地は計144戸あったが、解体前の入居者は約80戸。もりねき住宅は再入居の希望者数に合わせ、2~3階建て6棟で計74戸に抑えた。このうち14戸には新住民が入った。入江さんは「もとの住民の住まいを確保しながら、公共建築としては小さくたたむ。その分、公園を広げたり店舗を設けたりして地域に開く方が将来につながる」と考えたという。

市職員を辞め

入江さんは市職員時代、建築技師として学校や団地の営繕を担当していた。

飯盛園第二住宅の建て替えが決まると、PPP事業の先駆けとして知られる岩手県紫波町(しわちょう)への研修派遣に志願。平成28年4月から9カ月間、3人の子供を連れ、現地で民間事業者として地域活性化を学んだ。

「市の建築は規格が決まっていて、どうしても住民以外に恩恵のないものになる。大東市に戻ったら市役所を辞める覚悟だった」

29年春に市役所を退職してコーミンへ。住民との合意形成や前例のないPPP事業への融資交渉、テナント誘致などに奔走した。

老朽化が目立っていた「飯盛園第二住宅」=平成30年(入江智子さん提供)
老朽化が目立っていた「飯盛園第二住宅」=平成30年(入江智子さん提供)

入江さんのかつての部下で、もりねきプロジェクトを担当した市公民連携室の宮本歌奈子さん(40)は「行政の考え方をわかった上で、市営住宅に民間の市場性を持たせる方法を考え、実現できたのは入江さんだからこそ」と話す。

 リニューアルで誕生した「もりねき住宅」=今年7月(入江智子さん提供)
リニューアルで誕生した「もりねき住宅」=今年7月(入江智子さん提供)

3月のまちびらき以降、もりねきには各地の自治体やUR都市機構、大阪府住宅供給公社などからの視察が相次いでいる。地元の事業者からも「もりねきに合わせてうちも木造で社屋を建て替えたい」などの声が寄せられるという。

入江さんは「老朽化や住民の高齢化など全国の公営住宅が同じ課題を抱えている。もりねきをきっかけに、地域の人たちが誇りを感じながら地域の価値を高めていくような刺激を生み出したい」と話している。

四季に魅せられ移転

「季節によって山の色が変わる。窓のないビルの部屋で会議をしてきたので、自然の豊かな大東市に来てよかったなと思います」と話すのは、大阪市西区の南堀江から「もりねき」に本社を移転させたアパレル卸「ノースオブジェクト」の竹中雄一常務。

同社はフィンランド語でスープを意味する「Keitto」のブランドで、もりねきの商業棟に北欧風レストランやベーカリー、女性向けのライフスタイルショップなどを出店し、もりねき全体のイメージづくりを担っている。

竹中常務は「地域の方や子育てママたちと一緒に街をつくる。わが社が提案したい豊かなライフスタイルがそのまま伝わると考えています」と話している。(守田順一)