衆院選注目の選挙区

広島3区 「サイトー」メロディーで浸透図るも自公に残る火種

衆院選の序盤から与野党の党首が顔をそろえたのが広島3区だ。20日には首相で自民党総裁の岸田文雄と公明党代表の山口那津男、21日には立憲民主党代表の枝野幸男が現地に入った。自民の候補が出馬していないにもかかわらず双方が同区にこだわるのは、それぞれ深い事情がある。

「最後まで頼む」

岸田は20日夜、広島空港から帰京する間際に党広島県連幹部と面会し、念を押すように伝えた。求めたのは、広島3区に出馬した公明党所属の国土交通相、斉藤鉄夫への支援。岸田は空港に入る直前に広島市のJR緑井駅前で街頭演説に立ち、「斉藤さんとともに新しい時代を切り開いていく」と訴えた。

広島3区は、令和元年の参院選広島選挙区をめぐる買収事件で実刑判決が確定した元法相、河井克行の地元だ。自民が河井の後任候補選定を進めていた昨年11月、公明が機先を制するように斉藤の擁立を決めた。

広島は岸田の地元でもある。メンツをつぶされた岸田は自民党本部に駆け込み、当時幹事長だった二階俊博に「地元は公明に怒っている」と抗議したが、結局斉藤の擁立を認めざるを得なかった。公明の支持母体・創価学会は、岸田が会長を務める自民岸田派(宏池会)の議員に、選挙協力の打ち切りをちらつかせて揺さぶりもかけていた。

だが、今年9月の自民総裁選の結果、広島3区は首相のお膝元となり、自公協力の象徴区となった。自民県連幹部は「岸田内閣が発足した瞬間にガラッと雰囲気が変わった」と語る。

10月に発足した岸田内閣では公明の要望を受け入れ、斉藤を国交相に起用した。岸田は20日夕の街頭演説で、自民の「汚点」を逆手に取るように「誰よりもクリーンでまっすぐで、皆さんの期待に応えてくれる政治家が斉藤鉄夫さんだ」と訴えた。

参院広島選挙区選出の党税調会長、宮沢洋一は、広島3区で自民候補を擁立できなかった責任を取り、2月に広島県連会長を辞任した。今は「広島3区で公明と自民がぎくしゃくしたが、これを解決したのは両党の絆だ」と振り返る。

とはいえ、自公の間に火種が残っているのも事実だ。買収事件に関わった自民県議らは表舞台に立っていない。公明には自民県議らの支援に期待する声もあるが、公明県本部の幹部は「自民からは選挙買収に関わった県議らとは接触するなといわれた。こちらから支援を頼むこともない」と明かす。

斉藤が党幹事長や環境相を歴任した連立政権の大物といっても、広島3区では新参者だ。知名度不足も悩みの種となっている。

「サイトウ、サイト、サーイトー♬」

斉藤の集会では軽快なメロディーに乗せて名前が連呼されている。陣営関係者は「やはり名前が浸透していない。年配の人から気味悪がられるが、今はそんなことを言っている場合じゃない」と漏らした。

焦りを募らせるのは、新人のライアン真由美を擁立した立民も同様だ。広島3区は自民の「金権体質」を批判する上では絶好の舞台となるはずだったが、状況が一変したからだ。陣営幹部は「広島の首相が誕生し、相手は国交相になった。それまでは五分五分だと思っていたが厳しくなっている」と語る。

それでも枝野が21日に入ったのは、同区を重視している表れともいえる。枝野が意を砕いたのは、岸田政権の発足により「自公政権は変わった」というイメージの打ち消しだった。

演説では「広島の首相が出て、少しは期待している人もいるかもしれないが何も変わっていない。この間まで法相だった人がよりによって実刑。信じられない。それに対して、ろくな説明をしていない」と批判した。演説の最後に標的としたのは岸田や斉藤ではなく、元首相の安倍晋三や党副総裁の麻生太郎だった。

「安倍さん、麻生さんじゃなくて俺たちの声を聞け!」(児玉佳子)=敬称略

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