【北京=三塚聖平、モスクワ=小野田雄一】中国海軍とロシア海軍の艦艇計10隻が18日に津軽海峡を通過した。領海への侵入はなく国際法上の問題はないものの、中露艦艇の同時通過は初めて。両海軍は直前まで日本海で合同演習を行っており、津軽海峡の航行により両国の軍事的連携を国際的にアピールし、対立する米国と同盟国の日本を牽制する狙いがあるとみられる。
通過に先立つ14~17日、露太平洋艦隊と中国海軍は、日本海で合同軍事演習「海上連携2021」を実施した。同演習は12年からほぼ毎年行われてきたが、昨年は延期。中国側は今回、昨年就役した新型のレンハイ級駆逐艦「南昌」を参加させた。露国防省は演習中の15日、「日本海で米駆逐艦による領海侵入の試みを阻止した」と発表し、米艦が演習を妨害したと主張。米国がこれを否定する事態が起きていた。
中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は19日、津軽海峡通過は、中露が初めて合同で行った「海上戦略巡航」だとした上で、「域外国と周辺国への厳正な警告だ」(軍事専門家)と報道。中国のシンクタンク研究員は産経新聞の取材に「米国が台湾海峡通過を繰り返していることや、日本などと対中圧力を強めていることへの対応だ」と解説した。
中国は台湾海峡を米国などの艦艇が通過することを批判してきた。だが、中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は19日の記者会見で今回との整合性を問われると、「『航行の自由』を表看板に軍事的に脅し、地域の平和と安定を破壊しているのは誰なのか、国際社会は分かっている」とうそぶいた。
ロシアのプーチン大統領も14日放映の米テレビ局のインタビューで、米国と英国、オーストラリアの新たな安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の創設は「地域の安定を損なう」と批判。AUKUSに反発する中国に同調し、対米牽制で足並みを揃えた。
中露両国の軍事演習は、05年から主に陸軍を中心に1、2年ごとに行われ、12年から海軍の合同演習が始まった。18年から20年には、ロシアの4軍管区が持ち回りで主催する年次演習に中国の部隊が参加。今年8月には、アフガニスタン情勢を念頭に中国陸軍が寧夏回族自治区で行った「西部・連合2021」演習に、ロシアが部隊を派遣した。19、20年には中露の爆撃機が日本海などを合同飛行し、19年には露軍機が竹島(島根県隠岐の島町)周辺の日本領空を侵犯した。
中露の軍事関係の強化について、防衛研究所の山添博史主任研究官は「軍事的な能力強化よりも政治的メッセージの方が強い」と指摘。米国を念頭に「今後も関係を強化していると見える演出を続けるだろう」としながらも、「軍事的にも一定の効果はあり軽視すべきでもない」と話している。