「親分肌のピアニスト」-。周辺からそう呼ばれているという反田恭平さん(27)は、小さいときから大好きだったというショパンの曲だけで競われる大舞台「第18回ショパン国際ピアノ・コンクール」で2位入賞の快挙を果たした。
反田さんが20歳の頃から交流があるという音楽評論家の伊熊(いくま)よし子さんは、「演奏家仲間を食事に誘うなど面倒見がいい。孤高の人が多いピアニストの中ではとても珍しい」と明かす。子供のときに同じピアノ教室に通うなどしていた、4位に入った小林愛実さんも、一つ年上の反田さんを「兄貴っぽい」と慕っているという。コンクールで自分の演奏が終わり、「小林さんのサポートに回る」と話す反田さんをインターネットの動画配信で見た伊熊さんは、「この人らしい」と思った。
コロナ禍の昨年4月には演奏機会を失った仲間のため、有料でのライブ配信をクラシック業界ではいち早く開始。今年5月には、自らが結成したオーケストラの持続的な活動、音楽院の創立などを目的とした会社を設立した。ピアニストであると同時に、会社の社長でもある。
「演奏家も、公演開催やCD発売に関わるスタッフの苦労を知るべきだと考えた」。反田さんは、伊熊さんにこのように理由を語っていた。
「ものおじする人ではなかった」と話すのは反田さんが高校時代に師事した桐朋学園大名誉教授の川島伸達(のぶたつ)さん。そのピアノの魅力を「しなやかな音楽性と感受性、驚異的な瞬発力を併せ持っているところだ」と評する。
反田さんは伊熊さんに「ビリでもいい。ピアニストの実績がほしい」と話してコンクールに臨んでいたが、まさに、その「驚異的な瞬発力」を大舞台で発揮した。伊熊さんは「これで止まる人ではない。もう次のことを考えているんじゃないかな」。(石井健、本間英士)