名画や耳なし芳一にもさわれる「触」の博覧会

国宝「興福寺仏頭」の精巧な実物大のレプリカ。触ってみると、ひんやりつるつるすべすべの肌をしている=大阪府吹田市の国立民族学博物館(正木利和撮影)
国宝「興福寺仏頭」の精巧な実物大のレプリカ。触ってみると、ひんやりつるつるすべすべの肌をしている=大阪府吹田市の国立民族学博物館(正木利和撮影)

人間は視・聴・嗅・味・触の五感といわれる感覚をもっている。一般に美術館・博物館は視覚重視の展示をするものと相場は決まっているのだが、そこに「待った」をかける展覧会が登場した。大阪・吹田市の国立民族学博物館で開かれている特別展「ユニバーサル・ミュージアム-さわる!〝触〟の大博覧会」だ。

国宝の「仏頭」はひんやりしていた

会場に入ったとたん、目に飛び込んでくるのが、あの有名な国宝「興福寺仏頭」である。実は、4年前に奈良の「さわって楽しむ体感展示」というイベントのために作られたレプリカなのだが、恐る恐る触ると、ひんやりつるつるすべすべの肌をしている。

しばらく進むと闇のなか。そこには、木造の耳なし芳一像「てざわりの旅」が待っていた。芳一の顔をさわってみると、確かに両耳はない。木の感触を確かめながら手をすべらせる。像のそでから伸びる右手に触れると、人の手のようにやわらかい。木ではなく、どこかゴムのような感触…。

耳なし芳一像。そでから伸びる手を触ると…=大阪府吹田市の国立民族学博物館(正木利和撮影)
耳なし芳一像。そでから伸びる手を触ると…=大阪府吹田市の国立民族学博物館(正木利和撮影)


芳一の手は私の手

「あれは、わたしの手の型から作ったものです」と展覧会を企画した実行委員長、同館の広瀬浩二郎准教授はユーモアたっぷりに話す。実は、広瀬准教授は13歳のときに失明した視覚障害者。だから、この企画展は「視覚偏重のミュージアム制度を生み出した近代への挑戦であり、触覚の復権を目指すもの」(吉田憲司館長)として生まれた。

触れる展覧会を企画した広瀬准教授。自身も視覚障害がある=大阪府吹田市の国立民族学博物館(正木利和撮影)
触れる展覧会を企画した広瀬准教授。自身も視覚障害がある=大阪府吹田市の国立民族学博物館(正木利和撮影)


タイトルにある「ユニバーサル」は、万人を対象にするという意味をもつ。つまり、この企画展はどんな人でも展示されているものをどんどん触って楽しもうじゃないかという、いわば「触」の祭典なのである。

焼失した名画も

会場を回ると、とにかくいろいろなものが現れる。石彫、陶製の地図、和紙の立体絵画に陶でできたモネや、戦争で焼失したゴッホの名画、有名仏像のレプリカや中東・湾岸地域の女性用の飾り面まである。なかには音の出るボトルやたたくとよい音がする土鈴のような「音にさわる」というテーマでくくられた作品も並ぶ。

「来館者には、全身の感覚をフル活用してもらいたい。ものを見るという距離を、触ることによって縮め、ものと自分を一体化してほしい」と広瀬准教授。

陶板製のゴッホの「ヒマワリ」は戦災で焼失した作品を大塚オーミ陶業が再現したもの=大阪府吹田市の国立民族学博物館(正木利和撮影)
陶板製のゴッホの「ヒマワリ」は戦災で焼失した作品を大塚オーミ陶業が再現したもの=大阪府吹田市の国立民族学博物館(正木利和撮影)


作り手にとってもアートの可能性をさぐる試みになっている。たとえば「てざわりの旅」を作ったアートユニット「わたる」の彫刻家、古屋祥子は「ここを通る人にクスノキの香りを楽しんでほしくて、削りクズをまとめて芳一のそばに置いてみました」と明かす。

コロナ禍で人間同士のコミュニケーションが困難なときでも、みんなが等しく楽しめる機会をつくることはできる。ユニバーサル・ミュージアムは、その大いなるチャレンジの場なのである。(正木利和)

ユニバーサル・ミュージアム-さわる!〝触〟の大博覧会

大阪府吹田市の国立民族学博物館で11月30日まで(11月3日を除く水曜日と同4日休館、会期中一部展示替え)。一般880円。問い合わせ06-6876-2151。

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