ビブリオエッセー

私のバイブル、再び 「二十歳の原点」高野悦子(新潮文庫)

この本は初めて読んだ中学生の時から二十歳頃まで、私のバイブルであった。

「独りであること、未熟であること、これが私の二十歳の原点である」。巻頭に置かれた一文は全編を貫く高野悦子の宣言。その生と死は衝撃的だった。

『二十歳の原点』は1969年1月2日、彼女の二十歳の誕生日から始まる日記だ。京都の立命館大学に通うひとりの女子大生の日常生活と日々の思いがまっすぐに綴られている。時代は学生運動の季節。「闘争」に共感し、行動する彼女が運動の意味を問い続け、自分に向き合う。本を読み、ジャズ喫茶で音楽に傾倒し、詩作と、そして恋愛。どこにいても孤独だった。

私には学生運動はわからない。ただ彼女に大人を感じ、その感受性と知性に憧れ、短いながら、その生き方に捉えられた。明快で理知的な文章や詩情に惹かれた。二十歳頃までこの日記を、いつもどこかで意識した。

最近になって再読した。わかるようになったところも少しはあった。「スキー道具一式を売って『資本論』でも買うか」。社会や世界の矛盾に気づき、一方で何かに甘え、愛したい不器用な女の子がそこにいる。

自己の確立に悩みながら、日記が進むにつれて彼女はどんどん死と緊密化していく。そして「旅に出よう」と書いて6月22日で突然、日記は途切れる。

それは強い意志を持った自死ではなかったように思う。生きるため常にもがいていた彼女。書くことで皮肉にも死に誘われたのか。きっと人間の原点を突きつめようとしたのだろう。

人生の始まりを並走してくれたこの本を、改めてこれからも携えていこう。

三重県桑名市 水谷真彩(56)

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