病床増えても人材いない 第6波備え、医療現場の訴え

新型コロナウイルス患者に対応する埼玉県三芳町のふじみの救急病院。医療現場は、人材確保の難しさに直面している=8月19日、埼玉県三芳町(萩原悠久人撮影)
新型コロナウイルス患者に対応する埼玉県三芳町のふじみの救急病院。医療現場は、人材確保の難しさに直面している=8月19日、埼玉県三芳町(萩原悠久人撮影)

19日に公示される衆院選では、新型コロナウイルス対策が最大の争点となる。与野党問わず、過去最大の流行で医療崩壊に直面した「第5波」を教訓に病床確保の方策を模索し、国の権限強化も視野に入れる。医療現場からは病床を活用するための人材確保の難しさを訴える声もあり、実効性をいかに高められるかがカギを握りそうだ。

「各医療機関がこれ以上、重症病床を大幅に増やすことは可能だろうか」

地域の拠点病院として、中等症や重症の患者を受け入れてきた埼玉医科大総合医療センター(埼玉県川越市)の岡秀昭教授は第5波を乗り越えた今、率直に疑問を抱く。思いの先には、人工呼吸器などを扱える専門性を持った医療人材の確保の難しさがある。

第5波では、コロナの確保病床として申告していたのに活用されなかった「幽霊病床」の問題が顕在化。東京都では、入院患者のピーク時でも病床稼働率が7割程度にとどまった。

岡氏はこうした理由を「重症者の増加で、軽症・中等症病床が用意されていても、人手が足りず患者を受け入れられなくなっていた」と説明する。一般的に、重症者が1人増えると中等症以下の患者5人分に対応する看護師らが必要になるとされるためだ。

7月上旬に全国で約4千人だった自宅療養者は、ピーク時の9月1日に約13万6千人に膨張。東京・北区保健所の前田秀雄所長は確保病床をコップに例え、「新規感染者という水が大量に注がれ、限界を超えた時点で一気にあふれ出した」と振り返る。急激な症状悪化も第5波の特徴で、在宅患者の増加が自宅での重症化や死亡を招いた。

「この夏の2倍程度の感染力にも対応可能な医療体制を作る。それ以上に感染が拡大することがあっても国の責任で緊急的な病床を確保する」。衆院解散を受けた14日の会見で、岸田文雄首相はこう強調した。

15日には政府の対策本部会合で、第6波に備えたコロナ対策の全体像の骨格を提示。入院患者の受け入れ体制を第5波の1・2倍に増強し、感染再拡大時には8割以上の病床稼働率を目指す。公的病院には国の権限を行使し、専用病床の確保や臨時医療施設への看護師派遣などを求める。

衆院選の公約では、自民党が「国民的議論を踏まえ、行政がより強い権限を持てるための法改正を行う」としたのに対し、野党側も「国が病床などの確保に主体的・積極的に関与し、責任を持つ」(立憲民主党)、「医療機関の受け皿を拡大し、症状などに応じた役割分担と連携の強化」(国民民主党)などの文言を並べる。

医療現場では、ワクチン接種が今以上に進んだとしても、第6波以降に爆発的な感染が起きれば、一定数の重症者が生じる恐れがあるとの危機感は根強い。

前田氏は「早期診断・治療で重症化リスクのある人の症状を悪化させない必要がある」と指摘。軽症者の重症化を防ぐ中和抗体薬が誕生し、経口治療薬の実用化も見通せる中、早期対応の重要性は増している。

「『重症者を1人でも減らす』という戦略を強く打ち出す時期に来たのではないか」。岡氏もこう提言する。その上で、政治に訴えたいことは、病床確保以前に、若手医師らの人材流出さえ起きかねない現場の疲弊感だという。

「1年以上にわたって命の瀬戸際にある重症患者と向き合う精神的なストレスにさらされ続け、嫌気が差してしまっていてもおかしくない。国として、医療従事者をバックアップする体制を築いてもらいたい」(川畑仁志)