久保田勇夫の一筆両断

競争社会としてのアメリカ②―大戦後の日米関係の評価

もしアメリカであれば、格別注目されているに違いない対米交渉に関する本がもう一冊ある。元外交官の孫崎享氏による「戦後史の正体(1945~2012)」である。その題名から、売り出し中の評論家によるセンセーション狙いの本ではないかとの誤解を与えかねないが、れっきとした専門家による、わが国にとっては深刻な問題を提起する本である。念のために述べておくと、私は、役所流に言えば同じ年に霞が関に入ったという意味で同期であるこの著者とは、個人的な面識はない。同じ時期に東京大学法学部で学ばれたようであるが、大学時代に顔を合わせたこともない。

この本は、1966年にいわゆるキャリアの外交官として外務省に入省し、直後に英国の陸軍学校で学び、ソ連、イラク、イランなどに勤務し、外務省の国際情報局長を務めた人物による書である。その説くところは、わが国の戦後外交史は、アメリカの対日政策を抜きにしては語れない▽その対日政策は時々のアメリカの世界戦略の変化に伴って変わってきた▽その世界戦略の実現のためにアメリカは日本の重要な政策に深く関与してきた▽その関与は個々の政策についてのみならず、わが国の総理大臣の選定にも及んでいる―などである。

最後の点については、例えばどの総理のどういう政策について不満であり、その排除のためにどういう手段を用い、それに成功したかにまで及んでいる。また、戦後の歴代総理を具体的に名前を挙げて、「対米追随派」「一部抵抗派」「自主派」に分類している。そして、そういう判断をするに至ったいわば証拠とした事象を具体的に示しているのである。

「戦後史の正体」とは

わが国と多くの価値観を共有し、経済的に最も深い関係にあり、かつ、われわれが「同盟国」と呼んでいるアメリカについて、こういう経歴の人物が、このような主張をしていることは大変なことである。ところが、この本は専門家の間で十分議論されず放置されてきたような気がする。もし、これがあのアメリカであれば、この本は文字通り国を挙げての大論争を巻き起こしているに違いない。そして、そのような態度の差が、後で述べるように米国と日本との進歩の差をもたらしているのではないかと考えている。

私は、この本で示されている判断についてここで論評するつもりはない。ただ、今後の議論に資するため、この本がそういう主張の証拠として言及している日米国際金融交渉のうち、私自身がかかわったものについてのコメントを残しておきたい。

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