100歳時代

アロマで注意力改善 自立生活の破綻予防へ

宗未来・東京歯科大学市川総合病院准教授
宗未来・東京歯科大学市川総合病院准教授

日常生活での転倒防止や運転時のブレーキとアクセルの踏み間違い防止などに関係するといわれる「注意力」。記憶力と並んで重要な認知機能だが、加齢とともに低下してしまう。その改善にアロマセラピーが効果があるという研究が発表された。注意力の低下は高齢者の自立生活破綻のリスクに直結するだけに、専門家は「この研究を契機に記憶力ばかりでなく注意力にももっと目を向けてほしい」としている。(山本雅人)

正答数がアップ

アロマセラピーによる注意力改善を発表したのは、東京歯科大市川総合病院(千葉県市川市)の宗未来(そう・みらい)准教授(精神医学)。宗氏らのグループは令和元年、65~80歳の男女約120人を無作為に2群に分け、片方の群にはアロマオイル、もう一方には偽薬としてアロマ効果のないアルコールをそれぞれ数滴ずつシールに染み込ませ、衣服の首に近い部分に貼ってもらった。

ラベンダー(手前)の香りはリラックスを促し、ローズマリーの香りは活動を促すという
ラベンダー(手前)の香りはリラックスを促し、ローズマリーの香りは活動を促すという

そのうえで参加者に対し、実験期間の前と後にPASAT(パサット)と呼ばれる注意機能を調べる足し算のテストを行った。2秒ごとに1桁の数字を読み上げ、読み上げられた数字と、その1つ前の数字を足しては答えていくというものだ。

期間は12週間、シールは朝夕2時間ずつ貼ってもらった。参加者には自身がどちらの群なのかは教えず「香りをかいでもらいます」とだけ伝えた。アロマ群には朝はローズマリーやペパーミントなど活動モードになる香り、夕はオレンジスイートやラベンダーなどリラックスモードになる香りを与えた。

その結果、香りをかぐ期間の前と後でテストの正答数を比べたところ、アロマ群が平均で5・80増えたのに対し、アルコールの偽薬群は2・48と統計学的に有意な差が出た。偽薬群でも正答数が増えていたのは、実験前にも1度テストを受けていたことによる「慣れ」や〝効果のありそうな香りをかがされた〟といった心理的な影響の効果とみられる。

厳密な検証重要

香りと認知機能については、認知症の症状として記憶より前に嗅覚が損なわれるとの研究が複数あり、嗅覚から認知症の兆候をつかむ検査キットも販売されている。また、宗氏によると「逆に嗅覚を刺激し続けることで、脳の海馬の体積拡大や神経細胞の新生といった活性化が報告されている」という。

こうしたことから、アロマセラピーの認知症への効果を期待してさまざまな研究が行われたり、商品が発売されたりしているが、多くが他のグループと比較しない単一群だけでの前後比較の実験に基づいているとし、「『慣れ』などの結果への影響が否定できず、医学的に厳密とはいい切れないのでよく見極めて判断してほしい」と語る。

今回、偽薬群との比較からアロマでの改善が明らかになった注意力について、宗氏は「高齢者の危険運転や転倒などのほか、薬の飲み間違い、詐欺被害など、低下することで日常生活のさまざまなリスクになる」とし、「自立生活を破綻させないという点では注意力も重要だ」と強調する。

軽度認知障害(MCI)や軽度のアルツハイマー病を対象にした治療薬は、最近、米食品医薬品局(FDA)が「効果を見極めるための臨床試験を今後も継続する」とした条件付きで承認するなど、治療・研究が進んでいるが、根本治療薬はまだできておらず、他のアプローチによる機能回復への期待も大きい。

宗氏は「単一群での前後比較だが、アロマで記憶力が改善するデータも出たので、こちらも今後、医学的に厳密な方法で検証していきたい」と話している。