ビジネスパーソンの必読書

情報工場「SERENDIP」編集部

今年のノーベル物理学賞に決まった真鍋淑郎氏は「研究を続けてきた原動力は好奇心だ」と語った。皆さんにも、読書で好奇心を維持していただきたい。

配車アプリで明暗

□『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』栗田シメイ著(扶桑社新書・946円)

『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』
『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』

コロナ禍で大打撃を受けた業種の一つであるタクシー業界の現状と展望をリアルに描く。

業界団体のサンプル調査によると昨年5月時点で、タクシー業界全体の前年比売り上げが3分の1に。大手タクシー会社に勤務するあるドライバーは、平時に50万円前後あった月収が、昨年3月には8万円台にまで落ち込んだ。

そんな壊滅的な状況に貴重な売り上げ源となったのが「配車アプリ」。平成25年に米ウーバーが日本に上陸した際に「業界の敵」とみなされたことで配車アプリ自体を警戒する風潮があったが、コロナ禍がそれを一掃した。非接触決済で列に並ばなくて済むといったメリットから最大手の「GO」を筆頭に好調で、アプリを活用するドライバーと、そうでない者の収入差が広がっているという。

事故や災害で鉄道が止まったときに貴重な足となるタクシー。過疎地のインフラとしても期待される。危機を乗り越えてほしい。

精神修養の側面

□『世界のビジネスエリートが知っている 教養としての茶道』竹田理絵著(自由国民社・1650円)

『世界のビジネスエリートが知っている 教養としての茶道』
『世界のビジネスエリートが知っている 教養としての茶道』

日本の代表的な伝統文化・茶道の歴史や逸話、作法にまつわる知識を紹介し、ビジネスとの関わりや、その奥深い世界を伝える。

茶道の心は「和敬清寂」の四文字に凝縮される。「和やかな心、敬い合う心、清らかな心、動じない心」という意味だ。茶道を習っていたパナソニック創業者・松下幸之助はこれを「素直な心」と読み替え、謙虚な姿勢や、何ごとにもとらわれない精神力を育てていった。

お茶を点(た)てるために袱紗(ふくさ)で茶道具を拭く一連の所作にも、自身や客人の内面を清め、整える意味がある。茶道は「動く禅」とも言われ、精神修養の側面も強い。アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズはじめトップエリートが茶道の世界観に傾倒するのは、人間としての成熟につながるからだろう。

本来は武将のたしなみであった茶道。ビジネスという現代の「戦場」にも生かしてみてはどうだろう。

同族経営で改革促進

□『日本の私立大学はなぜ生き残るのか』ジェレミー・ブレーデン、ロジャー・グッドマン著、石澤麻子訳(中公選書・2200円)

『日本の私立大学はなぜ生き残るのか』
『日本の私立大学はなぜ生き残るのか』

海外の研究者が日本でのフィールドワークなどを基に、18歳人口が減少する日本で私立大学が生き残り、大学数が増えているという「謎」を検証。

著者らが調査した大阪のメイケイ学院大学(仮称)は平成初期には中堅校として安定した人気を保っていた。しかし、15年頃には志願者がピーク時から90%減少するという危機的状況に陥る。

同大学は創設者の次男である総長主導で大胆な教育改革とともに、入学定員や教員数の削減、学費の大幅値下げを断行。大学のいくつかの特徴はなくなったものの、少しずつ人気を回復しつつある。

同大学のケースなどから、著者らは「同族経営」が日本の私立大学のレジリエンス(粘り強さ、回復力)につながったとの仮説を立てる。一族のアイデンティティーを守ろうとする意識が改革を促すのだという。大学に限らず組織における改革を推進するのは「意志の一貫性」と「結束力」なのだろう。

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