古典個展

台湾は百年このままに 大阪大名誉教授 加地伸行

大阪大学名誉教授 加地伸行氏
大阪大学名誉教授 加地伸行氏

中国大陸と台湾との対立、それは本来、外国人とは無関係の問題ではある。

しかし、もし大陸側が台湾を制したとなると、東アジア並びに西太平洋地域の状況に大変化を来すこととなる。

中国海軍・空軍は台湾を基地として、太平洋を自由自在に動けるようになるからである。

やがて太平洋の西半分をわが物顔に左右することとなり、日本に対して軍事面などで大圧力を加えてくることとなる。

すなわち台湾を大陸が制圧した後、日本の国益は大いなる損害を受けることとなろう。

では、大陸は台湾に対してどのような攻撃をするのであろうか。もしも核兵器を撃ち込んだとすると、台湾は廃虚となるのみならず、放射能によって周辺地域まで壊滅的な影響を受けるだろう。もちろん核の使用など人道上、許されるものではなく、国際社会から大きな非難を浴びることは間違いない。

しかし実は、大陸側が台湾を核攻撃できない、しない理由がもうひとつある、と老生は考えている。

今から50年も昔、名古屋大学に勤務していた老生は、台湾に留学した。そのとき、知り合った人物は、米国帰りの台湾人コンピューター研究者であった。

そのころはコピー機でさえ珍しかった時代。コンピューターといわれても何のことか分からなかったが、研究者は台湾が造り始めていた、今で言うAI(人工知能)関連の巨大な研究団地に勤務していた。

率直に言って、台湾は先見の明があった。AI技術の発展を見抜き、その研究拠点、将来の工業化の地を50年も前に実質化していたのである。

老生が渡台した直前、日中共同声明が発せられ、日本は巨大な金額を大陸に提供してゆく。当時の中国大陸は貧しくAI研究など夢のまた夢であった。

台湾の前記AI団地が、今日の台湾を支える大きな柱となっていることは間違いない。そのAI団地も大陸からの核攻撃を受ければ、がれきと化す。

そのような愚劣な攻撃を台湾全土に加えて、何の意味や意義があるのだろうか。

中国の歴史を振り返ってみるがいい。地方の反乱などは絶えずあった。モンゴルをはじめ外国の侵入は、いつものことであったのみならず、中国は、金銭・産物・美女等々を提供して和平工作をしてきた。つまりは、戦争を避けてきたのであり、それは中国人の知恵であった。

今の状態が百年も続けば、大陸・台湾両者が知恵を出し合っての新展開がなきにしもあらず、と老生は思う。

そこで提案いたしたい。現状維持を百年続けてはどうか。

もちろん、大陸側には軍を中心にして急進派が存在することであろう。

しかし、彼らのその覇道観念を抑え、文化的に広い形での交流を深めてゆく王道を大陸・台湾両者ともに歩んでいってはどうか。

『尚書』(書経)太甲下に曰(いわ)く、徳をもってすれば、惟(こ)れ治まり、徳を否(いな)めば、乱る、と。(かじ のぶゆき)