アマゾンの家庭用ロボット「Astro」に見るAIの進歩と、その先にある世界

アマゾンがAstroを発表したオンラインイベントを観ている間、個人的には疑念だらけだった。しかし、ビデオにロドニー・ブルックスが登場したとき、こうした疑念は和らいだ。マサチューセッツ工科大学(MIT)の人工知能(AI)研究所の元所長であるブルックスは、ルンバで有名なアイロボットの共同創業者であり、ロボット工学の第一人者である。彼は現在、まだステルス状態にあるスタートアップを率いており、アマゾンとの間に利害関係はまったくない。

ブルックスはカメラの前で、Astroの高度な技術について称賛した。なかでも自己位置の推定と環境地図の作成を同時にこなす「ビジュアルSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)」の使い方について語ったのである。

アイロボットの共同創業者であるブルックスの言葉をバスケットボールに例えると、歴代最高のシューターと呼ばれるステフィン・カリーが、ある選手のシュートが自分よりうまいと褒めるようなものだ。それを考えると、アマゾンはAI分野で大きな進歩を遂げたと言っていい。

技術的な強みと表裏一体の弱点

ブルックスには、この発表会のあとで詳しい話を聞いてみた。彼はアマゾンのAstroにおけるプライバシー保護の実装方法に、技術的な意味で感銘を受けたとも言う。

Astroに対して人々は、わたしたちの暮らしに紛れ込んできた敵対的なスパイではないのか──という当然とも思える疑念を示している。なにしろAstroはカメラを搭載しており、訪問者に好奇心をもつようにプログラムされた貪欲なデータ収集マシンでもあるのだ。

しかし、アマゾンによると、Astroは室内の地理情報や録音された音声などの幅広い情報をローカル処理することで、わたしたちをこの問題から守ってくれるという。つまり、重要なデータは家の外には出ないということだ。ブルックスによると、これはかなり高度な技術によって実現した仕組みであり、相当の処理能力が必要になるという。

だが当然のことながら、プライバシーの観点からは絶対に安全というわけではない。将来的にデータをクラウドに送信するような「命令」が送られるようなことがあれば、そのデータを権威主義的な政府が入手する可能性もありうる。

それにデータをローカル処理していては、悪意ある人物による家庭用ロボットの悪用を阻止することはできない。例えば、家庭内暴力の加害者がロボットを悪用し、被害者を分刻みで監視させて追跡するような様子を容易に想像できてしまう。

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