【朝晴れエッセー】母と血圧計・10月15日 - 産経ニュース

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朝晴れエッセー

母と血圧計・10月15日

77歳の母が健康診断をうけた。父の店を継いで6年。加えて家事全般をこなし、休日に庭仕事も楽しむ母は、娘の私よりずっと若々しくアクティブである。

一方、病院や医師を極度に恐れ、ここ数十年健康診断を避けてきた。今回、周囲の説得に泣く泣く従った次第である。

血圧は娘時代から高いらしい。真面目な母は長年減塩に努め、野菜中心の手作り料理を心がけてきた。そこに、しょうゆを足す私は、かなりの低血圧なのに、薄味派の母は高いまま。

当日も高い数値が出て、うなだれていた。優しい先生は「緊張されたのでしょう。お家でも毎日、計ってください」とおっしゃった。

翌日届いた血圧計は、まず神棚に鎮座し、数日後仏壇へ移動した。「お供え物じゃないんだから」と言うと、母はため息をつき立ち上がった。が、まだ計らない。

どこかで見聞きした「血圧を下げる」ツボ押しや、体操をしてぐずぐずしている。ついには「この箱を見るとダメなの」と片付けてしまった。母の気持ちが少しでも和らぐようにと、ケースに猫のシールをべたべた貼ってみた。

10日後、ようやく初計測。しかし、心の準備が長過ぎたのか、病院以上に緊張し、両肩を上げ、顔はまっ赤になっている。場所がどこであれ、母は血圧計を前にすると平静ではいられないのだ。

来月、血圧データを持って再診の予定である。母は今後、血圧計とどう折り合いをつけるのだろう。

山田佳美 50 岐阜市