帰還事業訴訟、脱北者「子供と再会を」 3月に判決

記者会見する原告の川崎栄子さん(左)と高政美さん=14日午後、東京・霞が関の司法記者クラブ
記者会見する原告の川崎栄子さん(左)と高政美さん=14日午後、東京・霞が関の司法記者クラブ

戦後の帰還事業で北朝鮮に渡り、その後脱北して日本で暮らす60~80代の男女5人が「虚偽の宣伝にだまされて渡航し、出国を妨害されるなど基本的人権を抑圧された」として、北朝鮮政府に5億円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が14日、東京地裁(五十嵐章裕裁判長)で開かれた。原告らの尋問が行われ、即日結審。北朝鮮側の出廷はなく、訴えに対する認否の書面の提出もなかった。判決は来年3月23日に言い渡される。

北朝鮮は昭和34~59年、在日朝鮮・韓国人とその日本人配偶者ら家族を対象に、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)とともに「北朝鮮は十分な衣食住や無償教育・医療が保障された『地上の楽園』である」などと宣伝し、帰還事業を推進。9万3000人以上が渡航したとされる。

国家の行為は外国の裁判権に服さないという国際法上の「主権免除」の原則に帰還事業が該当するかや、日本の裁判所に管轄があるかなどが訴訟の焦点になる。

原告側は、帰還事業の開始直前に行われたソ連外交官との会談で、金日成主席が「日本在住の同胞が戻れば政治的・経済的な利益をもたらす」と語っていた記録を紹介。「帰還事業は北朝鮮が水面下で計画し、朝鮮総連に働きかけて実施したものだ」と主張した。

原告への尋問では、朝鮮総連が経済的に困窮した家庭を狙って勧誘していたことが浮き彫りとなった。原告の一人、榊原洋子さんは「9歳のときに母が脳出血で倒れ、給食費も払えなくなった。総連の方が毎日帰国を勧め、母の医療費も心配しなくていいと言われた」と証言した。

また、コロナ禍以降、北朝鮮国内に残る子供や孫たちの消息が確認できないという川崎栄子さんは、「帰還事業で渡航した大多数はすでに亡くなったが、その2世・3世は今も北朝鮮に閉じ込められている。裁判を通じて帰還事業の違法性を明らかにし、生きて彼らと再会したい」と訴えた。

会員限定記事会員サービス詳細