鑑賞眼

「October Sky」優しさあふれるミュージカル 

ホーマー(甲斐翔真、左から2人目)らロケットボーイズは、炭鉱の町に少しずつ変化をもたらす(NAITO撮影)
ホーマー(甲斐翔真、左から2人目)らロケットボーイズは、炭鉱の町に少しずつ変化をもたらす(NAITO撮影)

ロケット打ち上げを夢見る、炭鉱の町に暮らす高校生たちの挫折と挑戦の日々を描いた日本初上演のミュージカル。原作は、元NASA技術者の自伝小説「ロケットボーイズ」で、ロケットボーイズのアナグラムである「October Sky」(邦題は「遠い空の向こうに」)のタイトルで映画化もされている。

作品の重要なテーマである「若者が夢を持つ大事さ」を描くのに、上演台本、訳詞、演出の板垣恭一はうってつけだ。登場人物全員に優しいまなざしを注ぎ、観客も若者たちを応援したくなる。なんといっても、平易で真っすぐなメッセージが伝わってくる訳詞がいい。歌詞をしっかり聞かせるタイプの曲が多く、登場人物の心情をたっぷり味わえた。

米国での2度のトライアウト公演を経た段階での日本初演だけに、物語の運び方には粗削りなところもある。特に1幕は少し単調になりがちで、炭鉱の事故までを収めて休憩に入っても良かったとも思う。ロケットの燃料にしようとアルコール入手に走ったロケットボーイズは、アルコールを飲み干したように見えたが、残っていたのかさらに買ったのか、説明不足と感じるところもある(細か過ぎる指摘だが)。

ホーマーを演じる甲斐翔真は、「マリー・アントワネット」のフェルセン、「ロミオ&ジュリエット」のロミオと立て続けにミュージカルの主要キャストを経験し、急速に力をつけた。舞台映えする容姿はもちろん、ロングトーンの安定感も増し、おっとりとした持ち味が役によくはまっている。

やんちゃな友人のロイ(阿部顕嵐)とオデル(井澤巧麻)、優等生のクエンティン(福崎那由他)と、ロケットボーイズの面々もそれぞれのキャラクターが立っている。違う個性がぶつかり合う強さが、実話をもとにした物語のリアリティーを強めた。

まっすぐで優しい演出が光る一方で、ホーマーの人生を決定づけることになるスプートニクの上空通過を見守るシーンを始め、全体的に表現はおとなしめ。その中で気を吐いたのが、ホーマーの母、エルシーを演じた朴璐美(ぱく・ろみ)だ。感情豊かでステレオタイプでない母親像を熱演し目を引いた。

10月24日まで、東京・渋谷のbunkamuraシアターコクーン。問い合わせは、03・3234・9999。大阪公演あり。(道丸摩耶)

公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。


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