【泳ぎそして想う】競泳元ヘッドコーチ・平井伯昌 指導者にとっての学びとは - 産経ニュース

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泳ぎそして想う

競泳元ヘッドコーチ・平井伯昌 指導者にとっての学びとは

(左から)平井伯昌競泳日本代表ヘッドコーチ、大橋悠依=8月1日、東京アクアティクスセンター(納冨康撮影)
(左から)平井伯昌競泳日本代表ヘッドコーチ、大橋悠依=8月1日、東京アクアティクスセンター(納冨康撮影)

次のステップへ進むためには、それまでのプロセスの振り返りと反省が重要になる。私自身、東京五輪で女子個人メドレーの大橋悠依(ゆい)が、2008年北京五輪男子平泳ぎの北島康介以来となる「2冠」を達成したことについては誇らしく思っている。一方で、今回の指導者としての自身の評価は決して高くはない。

指導歴は35年目に入っている。北島と初出場した00年シドニー五輪以降、五輪で金メダルを狙うには、ものすごくエネルギーを使って戦略を考え、本番では鎧(よろい)をまとって海外勢を撃破するような感覚だった。前回のリオデジャネイロ五輪男子400メートル個人メドレーで頂点に立った萩野公介のときもそう。試合後にはいつも「達成感」に包まれていた。

ところがだ。今回のリオ後からの道のりを振り返ると、達成感よりも「もっとできたことがあったのに」と反省ばかりが頭に浮かぶ。それでも金メダルが取れたということは、指導する者としての日々の積み重ねが己を成長させ、昔ほど死に物狂いで気力を注がなくてもよくなったということか。もちろん大橋自身の才能に加え、運などに恵まれていたこともあるが、自分のことをどう判断するかで、今後の取り組み方は変わっていく。

東京五輪後に開いたミーティングでは、国際経験の少ないコーチから「もっと経験のあるコーチから学びたかった」という意見が挙がった。私からすれば「今さら何を?」という思いだった。私には23歳で指導者になって以降、トップ選手に対してやりたいことが山ほどあった。学びたいこと成し遂げたいことが、自然に湧き出ていたからだ。

社会人になってからの学びは、自らの欲求と目標がなければ習得できないもの。そして己で考えたことを実現できる環境こそ、指導者の醍醐味(だいごみ)だろう。選手と意思疎通を図りながら情報収集をしたり、夢の中でも戦略を練って目標達成への計算式をひねり出したり。実行するのは自分自身で、そんなことは誰も教えてはくれないのだ。

9月上旬、男子背泳ぎで五輪4大会連続出場の入江陵介が私のところに来てくれた。実は彼には今後、若手選手への助言だけではなく、コーチ育成にも力を借りたいと考えている。東京五輪では競泳の主将を務め、これからも泳ぎ続けるというベテランの言葉を現場で生かしていきたい。3年後のパリ、そして2028年ロサンゼルス五輪まで見据える時間は、私にとっての新たな学びになる。