ビブリオエッセー

自分が動きさえすれば… 「とにもかくにもごはん」小野寺史宜(講談社)

「コロナ太り解消」という言葉を1日に1度は目にし、「食品ロス」が社会問題になる今の日本で、夜、ごはんが食べられない状況にある子供たちが増えている。実に子供たちの6人に1人は貧困状態にあるという。

この小説の舞台は「クロード子ども食堂」。クロード・ドビュッシーの好きな黒沼さんの、あっという間につぶれたカフェ「クロード」のお店をそのまま借りて、近所の松井波子が始めた。月2回、午後5時から午後8時まで。子供たちに無料で食事を提供している。

「黒沼さん、お店を貸していただけませんか? できればタダで」。波子の唐突な申し出から手作りのボランティアが始まった。

波子には事故で亡くなった夫の話が忘れられない。いつも公園でただひとり、菓子パンをかじっていた近所の小学生のことだ。

調理スタッフや大学生らボランティアはすぐ見つかった。小説はクロード子ども食堂にごはんを食べにくる小学生や訳ありの大人たちの一晩が285ページの物語になっている。

今の子供たちは昭和の子供たちより世の中をよく知っている。家の広さが違う理由も、親の転職に「前向き」と「後ろ向き」があることも。なによりその差を埋めるのは簡単じゃないことにもしっかり気づいている。

閉店が近づき、カフェ時代の「クロード」でもかかっていたドビュッシーの「レントより遅く」が流れる店内。波子の高校生の一人息子、航大は人のつながりを知って、こうつぶやく。「動くもんだ。自分が動きさえすれば」

それは大人たちへの叱咤激励かもしれない。「先の見えない日々」を嘆くより「動いてみよう、自分から」と思わせてくれる一冊だった。

東京都目黒区 はづき(41)

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