【話の肖像画】元ソニーCEO、クオンタムリープ会長・出井伸之(83)(12) インターネットという「隕石」に立ち向かえ - 産経ニュース

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元ソニーCEO、クオンタムリープ会長・出井伸之(83)(12) インターネットという「隕石」に立ち向かえ

米サンフランシスコの高校で、インターネットにアクセスする学生を見守るクリントン大統領(右)とゴア副大統領(左)=1996年3月(AP=共同)
米サンフランシスコの高校で、インターネットにアクセスする学生を見守るクリントン大統領(右)とゴア副大統領(左)=1996年3月(AP=共同)

《東西冷戦が終結し、世界経済・社会のグローバル化が進み出した1990年代前半。世の中には新しい時代への高揚感と不安が渦巻いていた》


アメリカでは93年1月に、ビル・クリントン政権が誕生しました。僕を含めた若手の役員4、5人が、アル・ゴア副大統領のスピーチを聞いてくるようにと、会社から指令を受けました。

ロサンゼルスにある大学の構内にたくさんの聴衆が集まっていました。「この中でインターネットを使っている人はいますか」と聞かれて、手を挙げた人は2割ぐらいしかいませんでした。当時はアメリカでもインターネットサービスが商用化されて数年しかたっていなかったのです。

ゴア副大統領はこのとき、アメリカの新しい方向性を示す「情報スーパーハイウェイ構想」を発表しました。歴史的なスピーチでした。


《産業競争力強化のため、全米の企業や行政機関、家庭、病院などにあるコンピューターを高速通信回線で結ぶという壮大な計画だ》


インターネット網を高速化し、金融とeコマースを次の産業の柱として育てるという内容でした。「世界が変わる。インターネットはビジネス界に落ちた隕石(いんせき)だ」と僕はショックを受けました。

ソニーはテレビやビデオカメラ、オーディオなどの製品を売っておしまいのビジネスをしていました。僕はコンピュータ事業部長のときにIT業界の人脈をつくり、さらに自分でつくった社内シンクタンクを通じてデジタルの知識を蓄えてきたので、インターネット網が高速化し、普及した世界を想像することができたのです。

恐竜が隕石で絶滅したといわれているのと同じように、「このままではソニーも絶滅する」と思って、インターネットの普及拡大による世の中への影響や、その中でソニーが進むべき方向性を分析しました。

翌年1月、「スーパーハイウェイへのソニーの対応」というタイトルのリポートをまとめ、社長の大賀典雄さんに提出しました。

この中で、「21世紀初頭にネットワークを利用した巨大企業が出現する」「通信インフラを利用したビジネス統合者の成長」「メディアは一方通行のマスメディアからパーソナルメディアになる」という予測を書きました。A4用紙でたった2枚のリポートですが、久しぶりに読み返しても、まさに今起きていることが書かれているなと感じます。


《この年、ソニーは家庭用ゲーム機「プレイステーション」を発売する。その後もパソコン「VAIO(バイオ)」のほか、スウェーデンの通信機器大手エリクソンと合弁を組んで携帯電話を強化する》


僕がリポートで一番訴えたかったことは、あらゆるものがネットワークにつながった世界では、ユーザーの情報を取得することが何よりも重要になるということです。「AV(オーディオビジュアル)のソニー」にデジタルの軸を加え、ネットワークに接続して映画や音楽といったコンテンツを利用できる製品群を増やすことが、ソニーの成長に不可欠だと考えました。

そうでなければソニーは滅びるというメッセージでしたが、リポートを出しても、社内には危機感は伝わらなかったように思います。(聞き手 米沢文)