行政の虐待対応に限界 摂津市は5人で年間700件

大阪府摂津市のマンションで8月、新村桜利斗(にいむら・おりと)ちゃん=当時(3)=が熱湯をかけられ死亡した事件で、母親の交際相手の松原拓海(たくみ)容疑者(24)が13日、殺人罪で起訴された。児童虐待に関する情報をめぐっては、個別の事情をふまえた繊細な対応が行政機関に求められる。国はさまざまなケースを想定した対応方法をガイドラインで定めているが、この事件では守られていなかった。対応に当たった摂津市は「財政やマンパワーには限りがある」と説明しており、行政機関の対応能力の限界が露呈した形だ。

■情報共有の形骸化

桜利斗ちゃんの調査主体となった摂津市家庭児童相談課では、年間約700件の虐待を含む見守り対象案件などを社会福祉士の資格を持つ職員ら5人で分担している。経験年数は、6年の職員が1人いるほかは1~3年と浅かった。

さらに児童相談所との情報共有についても、形骸化していた。市と児相が虐待情報を共有する月1度の会議では、40~100件の事案が話し合われ、1件当たりの時間は数分程度。児相は市の報告を聞くことに終始し、具体的な助言を出すことは少なかったという。

今回のように子供の発達に遅れがある場合は背景として虐待の影響も考えられ、一層の注意が必要だ。にもかかわらず、桜利斗ちゃんに対しては国のガイドラインに反して個別面談も行われていなかった。適切な調査ができていれば、児相を中心とした緊急性の高い対応に切り替えられていた可能性もある。

■AI活用の児相も

「児相や自治体がリソース(資源)不足に陥れば、死亡事案の防止は難しくなる」。花園大の和田一郎教授(児童福祉論)はこう話す。

和田教授が政府統計などを分析したところ、1つの児相が管轄する人口が100万人を超えると死亡事案が増加する一方、40万人以下では減少する傾向にあったという。摂津市などを担当する児相の管轄は約112万人だった。

厚生労働省によると、令和2年度中に児相が虐待相談に対応したのは、約20万5千件(速報値)で過去最多。自治体の対応も増加を続け、元年度は約14万8千件だった。国は来年度までに、全国の児相で児童福祉司を増員し、全市区町村でも専門職員が虐待情報の収集などにあたる支援拠点を設置するとの目標を掲げるが、習熟した職員を確保するのは困難な状況だ。

和田教授は「AI(人工知能)を活用し、電話の通話音声を瞬時に文字化するシステムを導入している児相もある。専門性が高い人員を確保するのか、業務効率を上げるのか。行政の体制を変えない限り、悲劇が繰り返される」と話している。(小松大騎、小川恵理子)

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