《横浜市の旧大口病院(現・横浜はじめ病院、休診中)で平成28年、高齢の入院患者3人の点滴に消毒液を混入させ中毒死させたなどとして殺人罪などに問われた元看護師、久保木愛弓(あゆみ)被告(34)の裁判員裁判第6回公判は、休廷を挟み、検察側の被告人質問が再開された》
《「起訴された事件より前に、患者に消毒液を入れたことはないのか」。検察側の問いかけに弁護側が異議を唱えたところで、いったん休廷していたが、久保木被告は結局、弁護士との相談の上で「答えたくない」と黙秘する選択をした。検察側は、犯行を思い至った経緯について質問していく》
検察官「患者に(消毒液の)ヂアミトールを投与するというのは、看護師が誤って消毒液を患者に注射するというニュースを見たこと(がきっかけ)だと述べていた。いつの話か」
久保木被告「わかりません」
検察官「だいたい、いつ頃か」
久保木被告「看護師になってすぐのころだったと思います」
検察官「事件にはどう影響したか」
《か細い声で、早口で質問に答えていく久保木被告。聞き取りづらかったのか、裁判長が「もう一度答えて」と促す場面もあった》
久保木被告「消毒液を入れると(患者が)亡くなると認識し、犯行の際にその方法を用いました」
《「自分の勤務時間外に、患者に亡くなってほしい。そうすれば、患者の家族から責められることがない」。検察側が改めて犯行の動機を確認すると、久保木被告は肯定した》
検察「(消毒液は複数あるが)なぜ、ヂアミトールだったのか」
久保木被告「無色で無臭だったからです」
《病院にあったほかの消毒液は、有色でにおいがあるものだったという。検察側は続いて、久保木被告の事件当時の心境を問うた》
検察「罪悪感が出てきたのは、(警察の)捜査が始まってからか」
久保木被告「話が矛盾しているかもしれませんが、警察の捜査前は、悪いことをしたという認識はありましたが、人をあやめているという認識は‥」
《殺人事件として警察の捜査が行われる段階になり、自らが犯したことの重大さに思い至ったとする久保木被告。その後、検察官が交代し、最初の被害者である興津朝江さん=当時(78)=の事件について、改めて久保木被告に確認していく》
《久保木被告が興津さんを担当することになったのは平成28年9月15日。最初の接触は午前10時ごろで、被告は興津さんの病室などで業務に当たっていたが、昼過ぎに興津さんが無断外出したため、久保木被告は迎えに行った。興津さんは、病室に戻るエレベーターで「早く退院したい。主治医に伝えてほしい」と訴えたという》
久保木被告「私の口から伝えてはいませんが、日勤の看護師のリーダーに引き継ぎました」
《だが、久保木被告は犯行に及んだ。次の夜勤時に再び興津さんを担当する可能性があり、また興津さんが無断外出すれば、自身の責任が問われると考えたという。検察は、犯行後の心境について質問した》
検察「帰宅した後、どんな気持ちだったか」
久保木被告「覚えていません」
検察「後悔はあったか」
久保木被告「なかったと思います」
検察「取り調べ段階では『もうやめにしようと思った』などと漏らしているが」
久保木被告「取り調べ中は、本当に申し訳ないことをしたと思っていた。事件当時は後悔の気持ちはなかったと思う」