【風を読む】いじめは夢への遠回り 論説副委員長・別府育郎 - 産経ニュース

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風を読む

いじめは夢への遠回り 論説副委員長・別府育郎

子供たちと一緒に記念撮影をする松井秀喜氏=平成27年
子供たちと一緒に記念撮影をする松井秀喜氏=平成27年

当時13歳だった大津市立中学2年の男子生徒が同級生からのいじめを苦に自殺してから11日で10年となった。男子生徒はハチの死骸を食べることを強いられ、「自殺の練習」までさせられていた。

それでも市教育委員会は「いじめと自殺の因果関係は不明」などとしていた。この問題を機に平成25年、「いじめ防止対策推進法」が施行されたが、文部科学省が把握するいじめや「重大事態」の件数は、令和元年に過去最多を更新した。ネット空間での匿名のいじめも加わり、少年少女らの過酷な環境は全く好転していない。

あるスラッガーの言葉を思いだす。日米で活躍した松井秀喜はかつて、「いじめ撲滅」の運動に向けてこうメッセージを送った。

「人は夢を持っていると思う。僕の夢は野球そのものだった。いじめることが夢なんていう人は一人もいないはずだ。かなう夢、かなわない夢があると思うけど、いじめは夢の遠回りになっている」

平成18年には本紙の求めに応じて、いじめに悩む子供にも紙面でこう語りかけた。

「もう一度じっくり考えてほしい。あなたの周りには、あなたを心底愛している人がたくさんいることを。それは家族であり、友人であり、時にはペットであるかもしれない。人間は一人ではない。一人では生きていけない。だから、そういう人たちが悲しむようなことを絶対にしてはいけないと僕は考えます」

「子供の夢が理不尽に断ち切られるような事態は本当に許せないですね」と聞いたこともある。松井は唇を、固くかんでいた。

エンゼルスの大谷翔平は今季、投打二刀流の活躍で、ベーブ・ルースをはじめとする大リーグ史の記録を数多く塗り替えた。その中に、松井の持つ日本人シーズン最多本塁打の記録もあった。

巨人時代の平成9年6月、ファンの少年が交通事故で重体となったと聞き、松井は試合前に励ましのサインをボールに書いた。少年は試合中に亡くなったが、「松井選手はきょう必ずホームランを打つよ」と言い残したのだという。悲しい知らせを聞いた松井は、延長十四回に左中間本塁打を放ち、天に拳(こぶし)を突き上げたままダイヤモンドを駆けた。

記録で大谷に抜かれ、実績は及ばなくとも、逸話はルースの伝説の生き写しといえた。松井には、そんな一面があった。