【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮が初めて公開した11日の新兵器展覧会で、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記は「主敵」は米韓でないと自衛目的の軍備を強調した。だが、実際に展示されたのは米本土を狙う大陸間弾道ミサイル(ICBM)や日韓を標的にした新型ミサイルの数々で、北朝鮮の〝ダブルスタンダード〟(二重基準)が浮き彫りになった。
北朝鮮メディアが公開した展覧会の写真で目を引くのが、巨体から「怪物」の異名を持つ新型ICBM「火星16」だ。欧米でもよく開かれる防衛装備展示会の形式を取ることで「グローバルスタンダード(国際標準)」に沿って自衛目的の装備をPRする場にすぎないと印象づける思惑のようだ。展覧会名も「自衛2021」をうたっている。
1月の党大会で金氏は米国を制圧すべき「主敵」と名指ししていた。今回の演説では「主敵」は米韓ではない「戦争そのもの」とはぐらかし、ソフト路線にかじを切ったようにも映る。
しかし、展示された「超大型放射砲」と称する事実上の短距離弾道ミサイルは韓国侵攻用とされ、ICBMは米本土を射程にしたもの。自衛だけが目的でないことは一目瞭然だ。
それでも金氏は「わが国への軍事的危険性は3年前と違う」と指摘。米国の支援でステルス戦闘機や偵察機など先端兵器を導入する韓国の軍備増強を非難し、北朝鮮の兵器開発だけを「挑発」と批判する「二重基準」をやめよと迫った。
3年前とは、初の米朝首脳会談(2018年6月)が開かれるなど、金氏が対話攻勢に出た時期だが、19年のベトナム・ハノイでの再会談が物別れとなり、トランプ前米大統領による米韓合同軍事演習中止の約束もほごとなった。
この失敗から米戦略兵器の韓国展開や米韓演習の中止を先に突きつけ、バイデン米政権の出方を探る路線にシフトしたとみられる。米側の譲歩は当面、期待しにくく、膠着(こうちゃく)化が続く間に兵器開発を進める両にらみの戦略といえそうだ。ただ、金氏が党創建76年の10日の演説で「衣食住の問題解決」を訴えるほど、経済は逼迫(ひっぱく)しており、長期戦に耐えられるかは不透明だ。