自民公約、賃上げ企業優遇策の実効性に疑問視も - 産経ニュース

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自民公約、賃上げ企業優遇策の実効性に疑問視も

衆院本会議で代表質問の答弁をする岸田文雄首相=11日午後、国会(矢島康弘撮影)
衆院本会議で代表質問の答弁をする岸田文雄首相=11日午後、国会(矢島康弘撮影)

12日発表された自民党の衆院選公約では、岸田文雄政権の目玉政策である賃上げ企業への税制支援が盛り込まれた。ただ、安倍晋三政権下で導入された同様の優遇措置は目立った成果を上げておらず、実効性を疑問視する声がある。一時的な支援策だけで企業経営に中長期的な影響を与える人件費の上昇を促すのは難しい側面もあり、賃上げ効果は限定的になりかねない。

公約では、企業が利益を人件費に回す割合を示す「労働分配率」の向上を目標に掲げた。首相は、賃上げに積極的な企業への支援を「抜本的に強化」すると明言しており、法人税優遇などを呼び水にして賃金水準を引き上げ、個人消費を刺激したい考えだ。

賃上げ企業の法人税を軽減するこうした制度は、既に平成25年度からある。現在は一定以上の賃上げと教育訓練費の増額などを行った場合、大企業は給与増加額の最大20%、中小企業は同25%が減税される仕組みだ。首相は減税率を引き上げることで賃上げ効果を高めたい考えを示している。

安倍政権下では戦後最長の「いざなみ景気」(14年2月~20年2月、73カ月)に次ぐ71カ月の景気回復が続き、大企業を中心に基本給の底上げ(ベースアップ)が相次いだ。ただ、中小企業や中低所得層には成長の恩恵が及ばず、労働分配率は過去30年近くにわたってほぼ横ばいが続いた。

格差是正に重点を置いた首相の「新しい資本主義」はこうした反省を踏まえたものだ。とはいえ、6割超の企業は赤字で法人税を支払っておらず、税制支援の恩恵は受けない。こうした企業は大企業より中小企業に多く、「大企業優遇」だと批判があるのも事実だ。

賃上げ効果の実効性にも疑問符が付く。基本給は一度上げれば下げにくく、賃金に加え年金や社会保険料の会社負担も増すため、一時的な税制支援だけでは判断できないからだ。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは減税率を引き上げても現行制度の延長では「企業にとって魅力的ではない」と指摘。先行きの成長期待を高め、経済規模を拡大させる戦略を併せて実施しなければ、企業は大幅な賃上げに踏み切らないと予想する。

政権主導の賃上げが長続きしないと考えれば、個人の財布のヒモも緩まない。新型コロナウイルス禍で落ち込んだ日本経済の明るい展望をいかに開くか。首相が目指す「成長と分配の好循環」を実現する足がかりはまずそこにありそうだ。(田辺裕晶)