水管橋崩落で露呈した「リダンダンシー」の実現困難性 - 産経ニュース

メインコンテンツ

水管橋崩落で露呈した「リダンダンシー」の実現困難性

崩落した六十谷水管橋(奥)と仮の水管が設置された六十谷橋=8日午後、和歌山市(本社ヘリから、彦野公太朗撮影)
崩落した六十谷水管橋(奥)と仮の水管が設置された六十谷橋=8日午後、和歌山市(本社ヘリから、彦野公太朗撮影)

和歌山市の紀の川に架かる水管橋で今月起きた崩落事故は、老朽インフラの維持管理の難しさと、それに依存する都市機能の脆弱(ぜいじゃく)さを浮き彫りにした。防災の観点からは、ライフラインの複数保持を意味する「リダンダンシー」(冗長性、余剰などの意)が叫ばれて久しく、同市も10年以上前から、もう一本の水道管設置を検討していたが、事実上立ち消えになっていた。背景にあるのは財政難や人口減。同様のジレンマは各地の自治体に共通し、難しい政策判断を迫っている。

■困難さゆえの「先送り」

《被災時に備えてさらに送水管を整備し、複線化を図っていきます》

和歌山市が平成21年に策定した「水道ビジョン」。20年後の水道事業を展望して、リダンダンシーの実現を未来図に掲げていた。

それから12年。ビジョンは絵空事の域を出ないまま今月3日、同市北部への唯一の送水路だった六十谷(むそた)水管橋が崩落。約6万世帯、約13万8千人が突然の断水に見舞われた。

複線化はなぜ進まなかったのか。同市関係者によると、まずは昭和50年完成の六十谷水管橋のメンテナンスを優先し、平成27年度に耐震化工事を実施したのだという。

同市水道企画課の担当者は「複線化の方針そのものがなくなったわけではない」と強調。耐震化を終え、いよいよ複線化の設計や計画に関する予算要求を進めようとした矢先、崩落事故が起きたと説明した。

もっとも、複線化の具体像があったわけではない。新たな橋を架けるのか、川底に水道管を設けるのかといった送水方法も未定で、数十億円ともいわれる事業規模も見通せていない。

複線化が実現しても、今度は水道料金にはねかえることが想定される。膨大な予算と政策形成の困難さを見越し、「先送りしてきた」(市幹部)というのが実情だった。

■料金収入は2割減

「多くの人が住むエリアに、給水ルートが1本しかないのはリスクになる」。和歌山大システム工学部の江種(えぐさ)伸之教授(土木工学)は複線化の必要性を認める一方で、「水道事業が抱えている全体の問題も考えなければならない」と指摘する。水道事業は人口減に伴って料金収入が減るとともに、専門技術を持つ職員の不足といった構造的な問題を抱えているのだ。

和歌山市の場合、平成12年の年間水道使用量は約5千万トン、水道料金収入は約86億円もあったが、令和元年度はそれぞれ約4千万トン、約66億円に減少。20年間でともに2割程度減った計算になる。

和歌山市が平成21年に策定した「水道ビジョン」には、「複線化」の方針が明記されている
和歌山市が平成21年に策定した「水道ビジョン」には、「複線化」の方針が明記されている

■規模縮小化も

リダンダンシーは、平成7年の阪神大震災からの復興の取り組みをまとめた政府方針にもその記述が見られ、近年では老朽インフラ対策や、東京一極集中に対するリスク管理といった文脈でも語られてきた概念だ。水道事業においても、厚生労働省が以前から複線化などのリダンダンシーを推奨してきた。

奈良市では昭和56年度から市西部の約24万人に給水する水道管の複線化事業を開始。総延長約12キロに及ぶバイパス管の敷設工事は、平成28年度末に完成した。

同市水道計画課によると、19年度以降の総事業費は約18億円。早い取り組みが功を奏し、敷設費用を料金に転嫁せずにすんだ。

一方、山口県の周防大島(周防大島町)では30年10月、島と本土を結ぶ唯一の送水管が貨物船の衝突で破断するトラブルが発生。その際、複線化を求める声が一部で上がったが、送水管の新設・維持にかかるコストなどに鑑み、結局見送られた。

送水管を管理する柳井地域広域水道企業団の泉賢一郎事務局長は「もちろん複線化が理想的」としながらも、「新設に伴う水道料金の値上げは受け入れられそうになく、予算確保は難しい」。現状では複線化どころかダウンサイジング(小規模化)も考えなければならず、「不測の事態にいかに早く対応し、応急給水できる体制を整えられるかが重要だ」とした。