岸田文雄首相は11日の衆院本会議で、株式売却益など金融所得への課税強化を先送りすると表明した。自民党総裁選では格差是正の一環で富裕層が増税となる金融所得課税の見直しを掲げたが、政権発足後からの株価の下落傾向と、31日投開票の衆院選や来夏の参院選を前に軌道修正。公約実現に向けた抜本的な税制改革は来年の令和5年度税制改正が山場になりそうだ。
「賃上げに向けた税制や下請け対策の強化など、まずやるべきことがたくさんある」。首相はこう述べ、金融所得課税強化は「さまざまな分配政策の選択肢の1つ」とするにとどめた。
首相は4日の就任記者会見で「金融所得課税(の見直し)も考えてみる必要がある」と述べていたが、慎重な言いぶりに修正した。
格差是正を重視した首相の「新しい資本主義」では、現金給付などによる困窮世帯の所得底上げと、富裕層の課税強化が関心を集めている。金融所得課税の税率は所得税と住民税を合わせて一律20%。収入に占める金融所得の割合が高い富裕層は、年間所得額が1億円を超えると税負担率が下がることが課題だった。
「1億円の壁」打破に意欲を燃やす首相に想定外だったのは、株価の動きだ。自民党総裁選出前の9月27日から10月6日まで、日経平均株価の終値は約12年ぶりに8営業日連続で下落。海外経済の混乱に加え金融所得課税の見直し方針も投資家心理を冷やしたとされる。首相が公約にこだわれば、〝政治の季節〟に入って臨戦態勢の与党から反発が強まる可能性があった。
首相は金融所得課税強化を先送りし、今年末の令和4年度税制改正協議では賃上げした企業の法人税優遇など選挙でアピールしやすい公約を優先する構えだ。
一連の国政選挙が終わった来年末の5年度改正の方が、金融所得課税を含む懸案に取り組みやすいのは事実。8日最終合意した国際的な法人税改革も2023(令和5)年に導入する必要があるため、法人税法改正や多国間条約締結などの手続きが併せて行われる見通しで、5年度改正は議論が白熱する可能性がある。
(永田岳彦)