国内で年間約140万トン発生する衣料廃棄物。大半は家庭で不要になった衣料品の廃棄処分だが、作りすぎによる過剰在庫、製造過程で発生する生地の端切れなども要因で、衣料品業界での課題だ。兵庫県西脇市、多可町の地場産業である、先染め織物「播州織」の産地でも端切れなどを産業廃棄物としてコストをかけて処理しており、新技術の導入などで廃棄量の削減を目指してきた。さらに近年は、リサイクル材料として活用する動きも進めている。
CO2を削減
れんが塀に囲まれた社屋が印象的な「ソーイング竹内」(多可町中区)。昭和57年に創業した縫製加工卸売会社で、播州織の伝統に培われた技術を生かしつつ、従来の先染めに捉われない製品づくりも盛んに進めている。
「生地を裁断する際にどうしても廃棄せざるを得ない端切れが多く生じてしまうのが、業界全体として長年の悩みの種だった」
同社で、国連の「SDGs」(持続可能な開発目標)の取り組みを主導する竹内祐太さん(27)が振り返る。
「播州織」では、染めから織り、仕上げ加工まで全製造工程を地域内で完結。メード・イン・播州へのこだわりが特徴だ。一方、すべての工程を担うため、不要になった生地や糸なども大量に発生していた。
同社では平成24年に最新鋭の自動裁断機などを導入し、廃棄生地の削減量を大幅に減らすことに成功。さらに約5年前には、端切れ生地を再利用する事業者の存在を知り、工場内から出る廃棄生地のうち綿100%のものをリサイクルに回す流れを構築した。
提供した端切れ生地は布チップ、さらに成形材料に加工され、これを原料にして工作機械を操作するハンドルなど、さまざまな工業用機械部品に生まれ変わっている。綿100%から作った成形材料は、強度が高いという。
「従来は産業廃棄物としてお金をかけて処分していた端切れが、新たな製品に再生されるようになった」と竹内さん。焼却処分していた廃棄物が少しでも減ることで「二酸化炭素(CO2)の排出削減にも貢献できているのでは」と話す。
残糸も利活用
「世界第2位の環境汚染産業」-。製造過程などで出る廃棄物のほか、大量の水を使用したり、CO2排出量の多さなどから、国連貿易開発会議(UNCTAD)にこう酷評されたファッション業界。こうした厳しい視線に、生産現場も手をこまぬいているわけではない。
播州織は、先染め織物という特徴を持つ。「糸を染めてから生地を織るという播州織の特徴ゆえに、どうしても糸は多めに作られ、余った糸は別の生地には転用しづらい」。播州織の製織事業者でつくる播州織工業組合(兵庫県西脇市)の高見武常務理事(60)は説明する。各工場で多くの残糸が生まれ、廃棄されたり、使い道のないまま取り置かれたりしているという。
こうした状況を打開しようと、同組合は、残糸の備蓄システムを平成31年3月に構築した。事業者から余った糸を無償で引き取り、必要な事業者や個人に格安で販売する仕組み。同組合の敷地内に展示場を設け、残糸をずらりと並べている。
「さまざまな色や種類の糸が集まっているので、商品開発や商談に必要なサンプルを作るのにちょうどいい」と高見さん。まとめて販売することで強みになった。残糸の処分に困っていた事業者はもちろん、残糸で作成したサンプルは少量発注でも低コストといい、残糸の利用を考えている事業者にもメリットがあるという。
播州織を地方創生に生かす同市も、残糸問題に目を向ける。同市が策定した「ファッション都市構想」では、残糸の利活用による製造でのコスト削減や高付加価値化を課題に挙げた。