大津中2自殺10年「悲劇繰り返すまい」対策へAIも

電話で相談に対応するいじめ対策推進室の相談調査専門員=大津市
電話で相談に対応するいじめ対策推進室の相談調査専門員=大津市

「10年経(た)とうが息子に先立たれて悲しむ気持ちに変わりはない」。平成23年10月、大津市立中学2年の男子生徒=当時(13)=が凄惨(せいさん)ないじめを苦に自殺して丸10年となる11日、父親(56)は会見で苦しい胸の内を吐露した。二度と悲劇を繰り返さないように全国に先駆けた取り組みを推進してきた大津市では、いじめを見逃さない態勢づくりを目指している。

「じっくり相手に向き合うことを大切にしている。中には数年通う子もいる」。市の「いじめ対策推進室」の相談調査専門員、小田聡子さん(57)はこう説明する。

男子生徒の自殺では、加害生徒によるいじめを学校が認識していたにも関わらず、報告していなかったことなどが問題化し、市教委や学校に批判が集まった。市は再発防止として越直美・前市長のもとで、全国に先駆けたいじめ対策「大津モデル」を推進。同室は市教委ではなく、市長部局に設置され、学校外で被害者の声を聞くことで、いじめを見逃さないようにする狙いがあるという。

同室には小田さんを含め、3人の相談調査専門員が常駐。電話や面談を通じて学校でのトラブルやいじめの疑いがある事案の相談に応じている。手紙を書いてくる子供も多く、1通1通に目を通し、丁寧に返事をしたり、子供が話しやすいという場所へ赴いたりすることもある。小田さんは「小学生や中学生、男子女子と相談に来る子供はさまざま。本音を聞くことができるように向き合っている」と説明する。多いときは1日10件程度の相談に対応することもある。

学校が信用できないという場合も直接事案を持ちかけ、相談することができる同室。必要があれば、市教委にアドバイスするなど仲介役を買って出ることもあるといい、子供が求める支援を続けている。

会見で思いを語った生徒の父親(右手前)。越直美・前市長(左)も同席した=11日午後、大津市(渡辺恭晃撮影)
会見で思いを語った生徒の父親(右手前)。越直美・前市長(左)も同席した=11日午後、大津市(渡辺恭晃撮影)

独自の取り組みも進む。市はいじめを見逃したり、深刻な事態を招いたりしないよう無料通信アプリ「LINE」(ライン)を通じた相談事業や人工知能(AI)を用いて過去データを分析する独自のシステムなども導入。AIでは、客観的なデータが示されることで、いじめの兆候を早期に把握することができるといい、スムーズに適切な対応を取ることを目指している。

市の担当者は「学校現場のいじめに対する意識も変わりつつあるが、深刻化する事案には、AIは重要な手掛かりとなる」と説明している。

越・前市長「いじめ対策に終わりはない」

この日、亡くなった男子生徒の父親の会見に同席した越直美・前大津市長(46)は「旭川などいじめ自殺が起こった後の教育委員会の対応に10年前と同じ問題があるのを見ると、もう一度、教育委員会制度について論議し、廃止すべきだ」と訴えている。

越氏は、大津の事件発生直後の平成24年1月に大津市長となり、当時、画期的な第三者調査委員会を設置するなどいじめ対策の改革に取り組んだ。一方で問題にしたのは教育委員会制度だった。

「当時の教育委員会の対応は無責任そのもの。背景には、教育行政を決定するのは教育委員会である一方で、最終的に責任を取るのは市長であるという責任と権限が分離した点にあった」と振り返る。

25年3月には文科大臣に、26年5月には衆議院文部科学委員会で教育委員会の廃止を訴えた。しかし、「政治的中立性」などを理由に廃止は見送られた。

いじめ自殺から10年。越氏は改めて、「行政、学校の立場からは、いじめがあるという前提で対策が必要。いじめ対策に終わりはない」と話していた。

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