【勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(327)】川藤晴れ姿 夫人もあきれた ドタバタ激走憤死 - 産経ニュース

メインコンテンツ

勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(327)

川藤晴れ姿 夫人もあきれた ドタバタ激走憤死

オールスター第2戦の九回、左中間安打を放ったが二塁でタッチアウトになった阪神の川藤=1986年7月21日、大阪球場
オールスター第2戦の九回、左中間安打を放ったが二塁でタッチアウトになった阪神の川藤=1986年7月21日、大阪球場

オールスター第2戦、ホームランを放った怪物ルーキー清原と同じくらいスタンドを沸かせたのが川藤幸三だった。

メンバー発表前日のこと。甲子園球場のロッカールームで吉田監督から突然「お前を入れといたで」と言われた。

「監督、それはあきません。夢を売る男の集まる場所に、ワシなんか出たらおかしいですよ」

「そら、違うで。いまの野球は分業の時代やし、代打は立派な仕事や。それにお前の生き方は人に夢を与えとる」

第2戦 7月20日 大阪球場

全セ 000 011 100 00=3

全パ 002 000 100 01x=4

(勝)アニマル1勝 〔敗〕山本1敗

(本)山本①(杉本)清原①(遠藤)

川藤が〝晴れ姿〟を披露するときがやってきた。第2戦の九回2死走者なし。広島・達川の代打で登場した川藤は、近鉄・小野から会心の当たり。打球は左中間へ落ちた。

「よっしゃ、ヒットや」と思ったら、一塁ベースコーチの王(巨人監督)がグルグル腕を回している。「ほんまかいな」。川藤は慌てて二塁に向かった。だが、ドカドカ、バタバタ。二塁手前でタッチアウトになってこのポーズ。

「同点やし、ええとこ見せな―と走ったんやが慣れんことするもんやないわ」と川藤は頭をかいた。そしてポツリ「嫁ハン、ワシの初ヒット見てるかなぁ」とつぶやいた。

川藤の正代夫人はスタンドにいない。実は新婚時代、初めて甲子園球場に応援に出かけた試合で川藤が大エラー。虎ファンにヤジられる夫の姿を見て以来、球場には行かなくなった。

川藤は第1戦(後楽園)終了後、電話で正代夫人を誘ってみた。

「第2戦の切符あるで。見に来るか?」「……」。電話口で正代夫人は泣いていたという。でも、怖くて来られない。「ウチの嫁ハンはそういう女なんや」

試合後、筆者は西宮市の川藤宅に電話を入れた。すると―

「もう、格好悪いいうたら…。どうしようもない鈍足やわ。帰ってきたら、首絞めて家中、追いかけ回してやります」

ええ夫婦やなぁ。ちょっぴり心が温かくなった。(敬称略)