ビブリオエッセー

負けるな、子供たち「にんじん」ジュール・ルナール

「にんじん」に出会ったのは中学生の頃だった。教師から「あなた、にんじんみたいね」と言われ、なぜか嬉しくてすっかり共感しながら読んだ記憶がある。

ヴァロットンの挿絵もあり、情景が自然と頭に入った。短い章が続き、淡々と綴られる100年以上も昔のフランスの家族。母性のままにわが子を愛せない母親と野性的で機知に富んだ息子の攻防はやるせなく、心が痛い。

主人公の「にんじん」は少しばかり皮肉屋な父のルピック氏とこの冷たい母、火の粉を避けるため母に従わざるをえない姉、兄と暮らしている末っ子だ。母から一方的に手のかかる厄介な子供と決めつけられ、家中の面倒を押しつけられ、叱られてばかりいる。

ある日、父と散歩に行けることになったが、母に「行ってはいけません」と止められ、不本意にもあきらめてしまった。好きな父に気の毒な思いをさせ、数少ない楽しみを失ったにんじんの気持ちを思うといたたまれない。

なぜこれほど理不尽な仕打ちを受けるのか。ルナールの体験がもとになっているようだが、虐待されている小さな読者に寄り添うためこの物語を記したのではないだろうか。

遠慮や気配りも空振りに終わるにんじんだが終盤の「反抗」の章では、「水車小屋に行ってバターを一ポンド買ってきてちょうだい」と指図する母親に「嫌だよ、ママ。水車小屋には行かない」と頑として抵抗する。ここからは父を暗黙の同志として本来の賢さやユーモアを発揮し、たくましく成長していく。

にんじんはいつもわたしの隣にいて、子供の視線を忘れていないかと問いかける。理不尽や不安の中にいる子供たちは、願わくばにんじんを友に生きてほしい。負けない気持ちで。

大阪市都島区 青木美香(47)

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