ロードバイクのペダルを強く踏み込み、標高2000メートルの冷たい風のなかを一気に駆け抜ける。山肌をダケカンバが黄色く染め上げ、常緑のハイマツが青々と輝いている。雲は近く、地上はどこまでも遠かった。
岐阜県高山市と長野県松本市にまたがる乗鞍岳を14・4キロにわたって縫う、観光道路「乗鞍スカイライン」。標高3026メートルの剣ケ峰を主峰に抱き、23の山々が連なる乗鞍岳の変化に富んだ地形を、うねるように延びている。自然保護のため、自家用車の乗り入れを禁止し、バスやタクシー、自転車のみが通行可能だ。
自転車が走れる舗装路の国内最高地点とされ、上り坂を競技用のロードバイクで競う「ヒルクライム」の愛好者らには聖地とも呼ばれている。もともとは旧日本軍が高地実験施設への軍用道路として敷いたのが始まりで、戦後、観光用に整備されたという。秋には、広大な裾野を彩る紅葉を目当てに、多くの行楽客が訪れる。
ただ、昨秋は寂しい紅葉シーズンを迎えた。昨年7月の豪雨で、スカイラインの一部が崩壊し、全面通行止めに。今年7月、復旧工事を経て、1年ぶりに通行が再開された。
観光バスの運転手、宮沢義明さん(42)は「北アルプスの山々や雲海が車窓から見えると、乗客から喜びの声があがる。久しぶりに聞いた歓声がうれしかったね」と話す。
緊急事態宣言が解除された後の今月初めの週末。この時を待ちかねていたとばかりに、観光バスや自転車が次々と紅葉のスカイラインを走り抜けていった。2年ぶりに迎えた秋の行楽シーズンに人々のにぎわいが戻りつつある。(写真報道局 萩原悠久人)