【書評】『第二次大戦、諜報戦秘史』岡部伸著 日本の高い能力を明らかに - 産経ニュース

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書評

『第二次大戦、諜報戦秘史』岡部伸著 日本の高い能力を明らかに

「完璧な諜報活動」。英国の諜報機関は、日本のマレー作戦成功の理由を、こう絶賛した。日本は情報戦に敗北したといわれるが、本書は、英国立公文書館の機密文書をひもとき、当時の日本の高度なインテリジェンス能力を明らかにしている。開戦のみならず終戦に際しても、「国体護持」をめぐる中立国からの情報が、昭和天皇の「私には確証がある」との発言に見られるように、ポツダム宣言受諾の有力な根拠となった。

一方、現場で入手した的確な情報が、生かされない例もあった。小野寺スウェーデン公使館付武官は、独ソ戦の勃発を予測し、「絶対に日米開戦不可なり」との電報を送り続けたが、生かされることはなかった。さらに、ソ連の対日参戦というヤルタ密約の情報は、ソ連仲介による和平を模索していた政府中枢において黙殺されたのであった。こうした成功と失敗の教訓から現在の日本が学ぶべき点は多い。ちなみに本書では、英国の諜報機関が、小野寺を第一級の情報将校としてマークしていたことも明らかにされている。

さらに、ヤルタ密約と北方四島に関する部分は、昨今ロシアが歴史戦を挑んできているだけに興味深い。ロシアは密約を第一の根拠に一貫して北方四島の領有権を主張してきたが、本書では戦争末期ソ連が作成したと思われる密約の原本を確認している。そこでは、日露戦争で日本に譲渡された樺太南部は「返還される」、千島列島は「引き渡される」となっており、ソ連が千島列島領有の合法性に逡巡(しゅんじゅん)していたことを示唆している。

また、戦後米国が密約を無効とみなし始めた頃、チャーチルがヤルタ密約に不本意ながら署名したと釈明していた書簡など、密約を根拠とするロシアの北方四島領有の主張の脆弱(ぜいじゃく)さが浮き彫りとなっている。

ほかにも、戦争末期の日本が共産主義者に操られているとする中国国民政府駐スイス陸軍武官の電報など多岐にわたるテーマに切り込んでおり、インテリジェンスの醍醐味(だいごみ)と重要性を再認識させる。機密文書を駆使した本書の分析は、もちろん一次史料に基づいてさらに詰めていく必要はあるが、刺激と示唆に富んだ斬新な視点を提供しているといえよう。(PHP新書・990円)

評・庄司潤一郎(防衛研究所研究幹事)