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呼吸するように文学を体験 村上春樹ライブラリーを訪ねて

1階と地下1階をつなぐトンネル構造の階段本棚。所々に読書する白いフィギュアが置いてある=東京都新宿区の早稲田大学(桐山弘太撮影)
1階と地下1階をつなぐトンネル構造の階段本棚。所々に読書する白いフィギュアが置いてある=東京都新宿区の早稲田大学(桐山弘太撮影)

〈学ぶというのは本来、呼吸をするのと同じです〉。1日開館した早稲田大学国際文学館(通称・村上春樹ライブラリー)に正面から入ると、作家の村上春樹さん(72)が寄せたそんなメッセージに出迎えられる。村上さんが寄贈した書籍やレコードなどを収蔵する館内を歩いて印象に残ったのは、普通に息をするように人と物語、異文化に触れられる心地よい開放感だった。

「村上さんの小説は日常のわれわれが生きている世界に突然こことは違う時間が流れる。トンネル構造と私は勝手に呼んでいます」と設計を担った建築家、隈研吾さんは語る。

その思いは1階と地下1階をつなぐ吹き抜け構造の「階段本棚」に象徴されている。ぬくもりのある木のアーチが架かるトンネルのような階段の両側に約1500冊の関連書籍を収めた本棚が天井に向かってのびている。「生と死」「日常と非日常」といった項目別に並んだ本を横目に階段を下りていると、意識下へと深く潜る村上文学の世界を体感した気になる。その本棚に、頭を下にした逆さまの体勢で読書するフィギュアを見つけた。「現実は目に見えている形に限らない。村上作品に頻出するパラレル・ワールド(並行世界)を意識した」(同館)という〝遊び〟だった。

学生主体の「交流」

早大は文学館の活動の柱に▽研究▽交流▽発信-の3つを挙げる。際立つのはやはり「交流」の要素だ。

「村上さんがお好きだという深煎りのコーヒーを出しています」。そう教えてくれたのは地下1階のカフェ「橙子猫-Orange Cat-(オレンジキャット)」の店頭に立つ市原健さん(早大3年生)。村上さんが早大在学中にジャズ喫茶「ピーター・キャット」を開業したことを踏まえ、ここも学生が主体となって運営する。「ピーター・キャット」で使われた名盤を含む約360枚のレコードがそろうオーディオルームとともに、出会いや語らいの場になりそうだ。

館内には村上作品が外国語版も含め、すべてそろう。大ベストセラー『ノルウェイの森』も30冊以上あり、ふと手に取ったスペイン語版の題は『Tokio Blues』だった。東京という都市名の訴求力、そして生と死が交錯する悲痛な恋愛物語のエッセンスを生かそうと知恵を絞った海外の編集者らの姿が思い浮かぶ。異なる視点に触れることで他者への想像力は育まれる。それが良き「発信」にもつながるはずだ。

文学館によると、村上さんから寄せられた資料は約1万点。現段階では直筆原稿などは展示されていない。その物足りなさも美質に反転するから面白い。「文学館」の名に付きまとう堅苦しさはなく、蔵書は自由に閲覧できる。仲間と対話するもよし、自己に没入するもよし。いろんな人と用途に、開け放たれているのだ。村上さんは言う。「早稲田は都会の真ん中にあって比較的出入りが自由です。大学の中にある自由で独特でフレッシュなスポットになればいいなと考えています」

早稲田大学国際文学館(通称・村上春樹ライブラリー) 村上春樹さんが母校の早大に寄託・寄贈した執筆関係資料などを収蔵する施設。早稲田キャンパス(東京都新宿区)内の演劇博物館に隣接する校舎を改築したもので、地上5階・地下1階建て。建築家の隈研吾さんが設計し、費用は早大OBでファーストリテイリング会長兼社長の柳井正さんが全額寄付した。入館無料。大学関係者以外も利用できるが、当面は新型コロナウイルス対策のため、予約制となっている。