ビブリオエッセー通信

あのころの「未来」を検証すれば

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中学生が読んだSF小説の古典、フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(9月28日掲載)。「難解な文章と物語をなんとか読み終えて」ビブリオエッセーの一文にしてくれた。このSFが米国で刊行された1968年といえば『2001年宇宙の旅』の映画が公開された年である。

2001年も『アンドロイド―』の舞台、1990年代もすでに過去だが物語はいずれも古びていない。この中学生は現実との対比で巧みに古典を読み解いていた。

SFというジャンルでふり返ると最近では、異星人との遭遇を描いたテッド・チャン『あなたの人生の物語』(7月5日掲載)があったし、オーウェル『一九八四年』は一昨年11月に2作を掲載後も何作か原稿が届いた。おっと、安部公房『第四間氷期』(3月30日掲載)も日本SFの草分け。みなさん、時を超えた名作への熱い思いが行間にあふれていた。あのころの「未来」が検証される時代になっている。

さて一昨年11月に死去した眉村卓さんといえば日本のSF第一世代を代表する作家の一人だった。病気の妻に眉村さんが書き続けたショートショート集『僕と妻の1778話』(9月7日掲載)を読み、その感激を送っていただいたのは松山市の赤樫順子さんだ。「夕焼けエッセー」「朝晴れエッセー」に続いて、ビブリオは初めての挑戦だという。

「眉村先生がこの本に込めた思いや伝えたかったことを、ビブリオエッセーでうまく表現したい、そんな気持ちです」とメッセージが添えられ、掲載後は「眉村さんに興味を持ってくれた友人もおり、改めて新聞や活字の力を考えさせられました」と丁寧な報告のメールが届いた。

『1778話』が映画化されたとき眉村さんは、自分を演じた草彅剛さんが「男前すぎます」と笑っておられた。「夕焼け」の選者に加え、子供たちの未来の絵のコンクールでもご一緒したが、実に楽しそうなのだ。飛び出す辛口の批評も茶目っ気があった。

若い人たちに向けて、といえば、『なぞの転校生』などジュブナイルの名作が浮かぶが本格SFも忘れないでほしい。『消滅の光輪』をはじめとする「司政官」シリーズだ。

眉村さんが提唱した「インサイダーSF」を代表する作品群で、宇宙に進出した地球人類が植民星に派遣した行政官僚を主人公に「組織(体制)と個人」のありようが内側から描かれる。御堂筋のビジネス街を歩きながら会社員時代を懐かしそうに語っておられたことも思い出す。

今、話題は中国版SF、劉慈欣の『三体』三部作だろう。ビブリオエッセーに登場する日は…いや、今日はこのぐらいで。(荻原靖史)