駆け込み殺到「認証店神話」に潜む感染リスク

新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が解除され、酒類が提供できるようになるなどの緩和が進む。感染対策の基準をクリアした飲食店を認証し、非認証店との間で営業時間などに差を設ける自治体もあるが、多くが条件とするのがアクリル板やビニールシートの設置。ウイルスを含んだ飛沫(ひまつ)を防ぐ「壁」の役割を期待した措置で、役所のお墨付きを求めて申請が殺到している。〝認証店神話〟ともいえる状況が広がりつつあるが、アクリル板などが、かえって感染リスクを高めると指摘する専門家もいる。

駆け込み認証急増

約2万8千軒の飲食店がある兵庫県が、認証制度を設けたのは6月下旬のことだった。政府がその約1カ月前に都道府県知事宛てに通知した事務連絡で、認証制度を設けるよう求めたことに従った。

兵庫県が求める対策は、アクリル板など仕切りの設置、座席間隔を1メートル以上確保▽入り口への消毒液設置▽食事中以外のマスク着用の掲示、呼びかけ▽換気設備や空気清浄機の使用-など10項目。オンラインや郵送で申請を受け付け、書類と現地調査を経て認証した店にステッカーを交付してきた。

認証店は緊急事態宣言解除直前の9月28日時点で約1万2千店。さらに同日、斎藤元彦知事が、認証店と非認証店で営業時間に差を設けることなどを発表し、申請は急増。発表から約1週間で新たに3500店余りが認証店となった。

同様の傾向は全国でみられ、宣言解除後は、認証ステッカーが貼られた店で多くの人が酒を楽しんでいる。

アクリル板でウイルス滞留も

行政が感染防止対策を保証する形であるため、「認証店で酒を飲めば感染しない」という認識も広がりつつあるが、疑問を呈する専門家もいる。背景にあるのは、人の口から出て空気中に漂う微小な粒子に含まれるウイルスを吸って感染することへの懸念だ。

国立大学法人電気通信大の石垣陽・特任准教授(リスク情報学)はアクリル板やビニールシートについて、せきや会話などで飛ぶ比較的大きな飛沫による感染対策には有効とする一方、こうした微小な粒子を介した感染対策としては「かえってリスクを高めている」と指摘する。

石垣氏らの研究チームは、東北地方で今年3月に発生した事務室内でのクラスター(感染者集団)に注目。感染状況の検証実験を行った。

室内は約180平方メートル。天井からつり下げられたビニールシートで5区画に分けられていた。入り口は開いていたが、窓は閉まっており、5区画のうち3区画で計11人の感染者が出た。

実験では二酸化炭素ガスを使用し、空気の流れを解析。すると、飛沫防止のビニールシートが「壁」となって空気が一部の区画にたまり、国が推奨する換気基準のわずか20分の1にとどまっていたことが分かった。

大きな飛沫は遮断できたものの、ウイルスを含んだ粒子が空気中に滞留したことでクラスターが発生。ビニールシートやアクリル板などは、使い方によっては感染リスクを高めてしまう危険性が証明された。

「換気阻害しない工夫を」

新型コロナの感染拡大が始まってから1年半以上。緊急事態宣言や蔓延(まんえん)防止等重点措置による飲食店の営業時間短縮や酒類提供の自粛が繰り返され、店の経営者や利用客らのストレスは増える一方だった。宣言が解除された後も、認証待ちの店からは、認証店との営業時間の差などに不満が渦巻く。

神戸市で居酒屋を経営する男性(54)は、店にアクリル板を設置している。感染防止効果がどこまであるのかは分からないと考えているが、「店を再開するには、とりあえず設置するしかない。われわれは店を開けないと生活できない」と話す。「何が正しいかよりも、店を開くには国や県から『こうしろ』と求められたことに従わざるをえない」と本音を明かした。

石垣氏は、「日本の感染対策が飛沫と接触感染に偏り過ぎている点に根本的な問題がある」とする。アクリル板自体が悪いわけでなく、「ただ置けばいいというのではなく、換気を阻害しないような置き方を工夫するなど、丁寧な対応が必要だ」と話している。(倉持亮)