身も心もほかほか 手作りのおぼろ豆腐 東京・豆富司みしまや

豆富司みしまやでは、毎週火曜日と木曜日、店先で出来たてのおぼろ豆腐を売る=東京都大田区(川口良介撮影)
豆富司みしまやでは、毎週火曜日と木曜日、店先で出来たてのおぼろ豆腐を売る=東京都大田区(川口良介撮影)

夕暮れが早まる季節、温かい鍋ものや、みそ汁が恋しくなる。そうした和食に欠かせないのが豆腐だ。スーパーやコンビニで手軽に手に入る一方で、店の手作りを売る「町のお豆腐屋さん」は年々、数が減っている。それでもなお、地元の暮らしを支えるお豆腐屋さんがある。ある日の夕方、訪ねてみると、ほかほかと温かい出来たての豆腐が、人々の身も心も温めていた。

東急多摩川線の武蔵新田駅を降り、昭和の風情が残る商店街を歩くこと約6分。手作りの豆腐を売る「豆富司みしまや」(東京都大田区)がある。

店の自慢は「おぼろ豆腐」。10月初旬、午後5時ごろ。社長の小川晃一さん(55)が、おぼろ豆腐で満たされた寸胴鍋を持ち、店先に出てきた。家路につく人に向かい、「いらっしゃいませ、どうぞ」と呼びかけると、通りを歩く女性と目が合った。

「お父さんの顔を見たら、お豆腐買わないといけないね」

寸胴鍋の蓋を開け、大きなお玉で豆腐をすくい、どんぶりに盛り付ける。豆腐はまだ温かい。大が370円、小が270円。小でもかなりボリュームがある。「まずはそのままで味わって。しょうゆや、めんつゆをかけてもいい。ビールを飲む人は塩、ワインを飲む人はオリーブオイルと塩を合わせるのがおすすめ」と小川さん。

豆富司みしまやの「おぼろ豆腐」=5日午後、東京都大田区(川口良介撮影)
豆富司みしまやの「おぼろ豆腐」=5日午後、東京都大田区(川口良介撮影)


おぼろ豆腐の販売は、週3日。火曜、木曜は店先で、金曜は武蔵新田駅の前で夕方の帰宅時間帯に合わせて売る。そのため、早朝から作るほかの豆腐とは違い、おぼろ豆腐は午後から作り始める。今の季節は午後3時ごろから。夕飯に「出来たてを味わってほしい」という小川さんの思いからだ。

朝、絞って冷やした豆乳を、鍋ごと湯を張った釜にかける。湯葉ができないように丁寧にかき混ぜながら、豆乳の温度をゆっくり上げていく。

温まったら、釜から外し、にがりを入れて、豆乳を凝固させる。木製の「櫂(かい)」を鍋の下から上へと回し、豆乳をひと混ぜすると、「下から花が開くように、すーっとゲル化していく」という。冷めないように蓋をして、1時間ほどかけて固まらせる。

コロナで変化も

ほかにも、絹や木綿などの定番の豆腐や、厚揚げ、油揚げ、がんもどきなどが店頭に並ぶ。いずれも手作りだ。原料となる大豆は、青森産の「おおすず」と千葉産の「神崎(こうざき)在来」。豆腐の種類に合わせて配合しているという。

毎週水曜は、自転車で近所の商店街や住宅街を回る「引き売り」も行う。小川さん自ら自転車に乗り、「トー、フー」と聞こえるラッパを吹いて到着を知らせる。多摩川線で2駅先のあたりまで巡る。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、豆腐を求める客層にも変化があった。

在宅勤務をする人が増え、「いつも夕方スーツ姿で見かけた人が、ラフな格好をして買いに来た」こともあった。在宅勤務や外出控えで人との接触が減りゆく中、豆腐を買い求めるひとときは、ささやかなコミュニケーションの機会にもなったかもしれない。

しかし今や、こうした「町のお豆腐屋さん」は減少の一途をたどっている。東京商工リサーチや厚生労働省によると、豆腐製造業者の施設数は、ピーク時(昭和35年度)の5万1596カ所から、令和元年度の5713カ所と、約1割にまで減少。後継者不足に加え、もともと安価なのにもかかわらず、さらなる低価格競争が起きていることなどが要因とみられる。

小川さんも、店の将来に不安を感じないわけではない。だが、「なじみのお客さんに、うちが一番おいしいと思ってもらえるような店になりたい」という思いがある。これからも、日々の食卓に出来たての豆腐を届け続ける。(橘川玲奈)